COP25, 小泉進次郎環境大臣, 石炭火力発電

SOS地球号(241)  小泉環境大臣に求められる時代責任

パリ協定会議の苦い体験

 昨年12月,スペイン・マドリードで開かれたCOP25(第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議)に出席した小泉進次郎環境相は,国内外で石炭火力発電の新増設を進める日本への批判が予想以上に激しかったことを肌身で感じた。

 COP25のスピーチで、小泉大臣は「石炭火力輸出の公的支援の制限」を表明しようと意気込んでいた。大臣の意向を受けて同省幹部が密かに経済産業省や経団連などに根回しをしたが賛同を得られなかった。結局スピーチでは肝心の日本の石炭火力対策については一切触れず、温暖化ガスの一つである代替フロン削減の国際枠組みの立ち上げを提唱するに止まった。期待されたスピーチだっただけに参加加盟国や会場に集まった内外の環境NGOに大きな失望を与えた。国連のグテレス事務総長は日本の石炭火力発電の建設を「石炭中毒」と批判した。

 

石炭火力制限に意欲

 国内の石炭火力維持勢力の牙城を崩せず、一敗地に塗(まみ)れたかに見えた小泉大臣だが、今年に入り「日本の公的資金が使われる見込みの海外での石炭火力発電所建設計画について、環境省として調査を始める」と表明し、日本の「石炭政策を変えたい」との意欲を示した。

 小泉氏は自民党若手のホープであり、将来の首相最有力候補者の一人とされているだけに、この際、温暖化対策を含め、時代に合わなくなった日本のエネルギー政策を環境の視点から抜本的に改革,打破するために政治生命をかけてもらいたい。

 日本の主要な政策はエネルギーに限らずがんじがらめの縦割り行政に縛られて身動きが取れなくなっている。たとえば石炭火力発電の許認可権限は経済産業省が持っている。石炭火力発電の輸出については外務省が中心になり外交戦略として決めている。

 

規制官庁、環境省の限界

 今の環境省は政策実施官庁ではなく、規制官庁として位置づけられている。石炭火力発電について言えば、環境影響評価(アセスメント)が主要な仕事である。石炭火力発電所が排出する様々な有害物質の種類や排出量、周辺住民に与える騒音や振動、悪臭などが事前に定められている環境基準に合っているかどうかをチェックする。これらの基準をパスすれば、経産省の権限で石炭火力発電の新増設は認められる。

 しかしCOP25のような国際会議に日本を代表して環境大臣が出席すれば、海外からは石炭火力発電の許認可権を持つ官庁して見なされるだろう。英国やドイツなど環境政策を最優先させる欧州主要国では、環境とエネルギー政策を一体として推進しているため、日本の立て割り行政は中々理解されない。

 最近の世界的な異常気象の原因を考えれば、温暖化対策は最優先課題であるはずだ。CO2(二酸化炭素)排出量の大きい石炭火力の縮小、全廃はいまや大きな国際潮流になっている。欧米諸国と比較して電力発電に占める石炭火力の割合が高く、太陽光や風力などの自然エネルギーの比率が低い日本は温暖化対策に不熱心な国と見なされてしまう。

 

環境優先の総合的なエネルギー政策の展開に政治生命賭けよ

 このような事態に追い込まれてしまったのは、石炭火力重視の経産省のエネルギー政策が戦後一貫して維持されてきたためである。急激な気温上昇が異常気象を引き起こし、その主要な原因が人為的に排出されるCO2であることは科学的にも証明されている。CO2の排出量が大きい石炭火力の廃止が世界の常識になっている中で、我関せずと石炭火力重視の姿勢を貫く日本は海外からは異常に見える。

 小泉環境大臣は、この際、規制官庁としての環境省から抜け出し、環境行政の展開で政策が対立ないし重なる他省庁、たとえば、経産省、農水省、国土交通省、外務省などと協力し環境優先の立場から総合的なエネルギー・環境行政を推進すべきである。石炭火力については、経産省と同等の許認可権を持つ官庁に脱皮できるように努力しなければならない。

父親の元首相、小泉純一郎氏は孤軍奮闘しながら郵政民営化の実現に政治生命をかけた。時代の先を読む確かな目を持っていれば、エネルギー・環境一体の総合的政策展開が日本経済に活力を取り戻し、世界に貢献する道につながることは明らかだ。この課題に取り組むことこそが、首相候補とされる小泉環境大臣に求められる時代的責任であり役割といえるだろう。

(2020年2月15日記)

作成者: tadahiro mitsuhashi

三橋規宏 経済・環境ジャーナリスト 千葉商科大学名誉教授 1964年、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、論説副主幹などを経て、2000年4月千葉商科大学政策情報学部教授。2010年4月から名誉教授、専門は経済学、環境経済学、環境経営学。主な著書に「新・日本経済入門」(編著、日本経済新聞出版社)、「グリーン・リカバリー」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)「サステナビリティ経営」(講談社)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)など多数。中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長など歴任。

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