ウシなどの動物のおならやゲップが大量のメタンガスを排出
地球温暖化に起因する気候変動の凶暴化は目に余るものがある。猛暑、干ばつ、山火事、台風の大型化、集中豪雨、それに伴う洪水、土砂崩れなどの自然災害が日常化し世界中の人々の生活を圧迫し苦しめている。
この温暖化が引き金になってアメリカや中国では、牛肉などの動物肉に代って、豆類などの植物性タンパク質などを使い、味や食感、見た目を本物の肉に似せた食品(植物肉)を開発、製造,販売する企業が登場してきた。
温暖化と植物肉を結びつけるカギがメタンガスだ。人為起源の温室効果ガスの総排出量(世界全体)に占めるガス別排出量は、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)などの調べによると、1位が二酸化炭素(CO2)の76%、2位がメタンガスの16%。3位が一酸化二窒素6.2%、4位がフロンガス約2%だ。この比較が示しているように、温室効果ガスの9割以上をCO2とメタンで占めていることが分かる。
動物の温室効果ガス排出量は約6%、日本の5%を上回る
メタンガスの主要な排出源の一つが、驚くことにウシやヒツジ、ヤギ、ラクダなどの反芻動物がおならやゲップとして排出するメタンガスなのである。世界のメタンガス排出量全体の約37%が動物由来だと専門家は推定している。
この推定から計算すると、動物が排出する温室効果ガスは世界の約6%(16%×0.37%)を占めることになる。ちなみに日本が排出する温室効果ガスは世界の約5%なので、日本の排出量を上回っている。しかもメタンガスはCO2の約25倍の温室効果がある。
食生活の高度化が肉需要の拡大の一因?
今世紀に入り、中国を始め東南アジア諸国のめざましい経済発展によって、この地域の食生活の高度化が急速に進み牛肉や豚肉、鶏肉などの需要が大きく膨らんでいる。これらの需要に応えるためには牧場の拡大や家畜飼料の増産,大量の水が必要になる。
この数十年、アマゾンの熱帯雨林帯が過剰伐採され次々とハンバーガー用の肉牛牧場に転換していることは周知の事実だ。動物肉への需要が拡大する限り、このような動きは他の地域にも波及し森林の伐採に拍車がかる心配がある。
肉への需要は家畜用食料(飼料)の増産を誘発する。農林水産省の資料によると、世界の食用作物41品目(穀物、豆類、芋、果実、野菜など)をカロリーベースで分類すると、約55%が人間の食用、36%が家畜の飼料、残りの9%が工業用、バイオ燃料となっている。家畜の飼料が大きな比重を占めていることが分かる。日本はトウモロコシや大豆などの家畜飼料の大半を海外から輸入している。
牛肉生産の水需要は穀物の約10倍
しかも肉生産に当たっては穀物生産と比べ約10倍水を必要とする。国連の「世界水発展報告書〜人類のための水、生命のための水概要〜」によると、穀物1kgの生産に必要な水は1.5㎥、これに対し牛肉1kgの生産に必要な水は15㎥に達する。肉として食べることで水の使用量は大きく膨らむことが分かる。
世界の食料需要は世界人口の増加、肉需要の拡大などを背景に2005年比で2050年には60%〜120%まで増えるとの指摘もある。しかも牛などの家畜を育てるためには大量の水が必要となる。
肉需要の拡大は、温暖化、森林伐採、水不足に拍車をかける
この数年急速に広がってきた植物肉の開発、製造、販売の新たな動きは、温暖化対策、世界の森林保護,水の有効活用などの環境側面で貢献する他に,コレステロールやカロリーの低い健康食志向の面からも歓迎されている。
アメリカでは今年初め頃から外食大手が続々と植物肉メニューを売り出している。来店客も「見た目も味も動物肉と見分けがつかない」と好評だ。
中国でもアメリカを追いかけるように、ハンバーガーや中華料理で使う本物の肉の代替肉として取り組む事業者が急増している。日本でも食品や外食企業の中から同様な取り組みが始まっている。
米食肉業者、肉(ミート)の使用に反対
一方、急浮上してきた植物肉につては、米国の既存の食肉業界が危機感を深めており、業界をあげて「ミート(肉)」の名前を冠することに反対している。今年に入り米国の30州で「動物由来でない食品にミートの名前を冠することを禁止する法案」が議会に提出されており、すでにオクラホマなど数州では法案が議会を通過したという。
ゴッドフード(神様の商品)、ミレニアフードなど魅力的なネーミングを
食肉業界からの反発とは別の視点だが、様々な環境問題の解決に貢献し健康にも優しい「21世紀の食品」を植物肉と呼び、動物肉の代替品という二流のイメージで表示するのは好ましくない。今世紀の希望の食品として例えば「ゴッドフード」(神様の食品)、「ミレニアフード」(今世紀の理想の食品)などミートとは無関係の明るく、魅力的な名前を冠して堂々とその普及に取り組んでもらいたい。
(2,019年11月9日記)