グレタ・トゥンベリさん, トランプ米大統領, 国連気候行動サミット

SOS地球号(237)  気候危機!スウェーデンの16歳少女が大人世界へ投げた豪速球の波紋

国連気候行動サミットで大人世界を批判

スウェーデンの環境活動家、16歳の少女グレタ・トゥンベリさんが9月下旬ニューヨークの国連本部で開かれた気候行動サミットへ参加するため、飛行機を避けヨットで2週間かけて大西洋を横断した行為が大きなニュースとして報道されたことはご存知の方も多いと思う。

今回は、彼女が9月23日の国連気候行動サミットで大人世界へ投げた強烈な豪速球の波紋についてである。

この日、5分程の演説をするため壇上に夘立ったグレタさんは各国政府代表を睨みつけるような堅い表情で拳を振りかざし、強い口調で温暖化対策に消極的な大人社会を糾弾した。

 

あなたたちを絶対許さない

「若者たちはあなたたちの裏切りに気づき始めている」から始まり、「あなたたちは私の夢を子ども時代を空っぽな言葉で奪ってきた」、「あなたたちはお金の話や、終わりなき経済成長のおとぎ話ばかり」と続け、最後に「もしあなたたちが私たちを見捨てる道を選ぶなら、絶対に許さない」と声を振り絞り、環境対策の遅れを批難した。

彼女のスピーチは動画を交え瞬時に世界中に伝わり、新聞、テレビ、SNSを通して様々な反響を呼んだ。

 世界の環境を悪化させてきた大人世界を糾弾する口調があまりに激しかったため、大人社会からは彼女の人格や来歴などを持ち出し、「ちょっと変わった少女」と受け流そうとする空気一部にあった。例えば米国の評論家の中には民放テレビで「精神的に病んでいる。両親や国際的な左翼に利用されている」と切り捨てた。米産業界リーダーの中からは、「彼女は1面しか見ていない。経済成長が止まれば貧困国の人々は生きていけない」などの批判も投げかけられた。

 

大人げないトランプ大統領のツイッターに批判続出

 トランプ米大統領は、同日夜、ツイッターで、「彼女は明るく素晴しい未来を夢見る,とても朗らかな女の子らしい。微笑ましい姿だ」と揶揄するような書き込みをした。

グレタさんは、軽度の自閉症の一形態であるアスベルガー症候群であることを認めている。大統領のツイッターは彼女の演説の激しさを無視し、逆に「朗らかな少女」と投稿した。投稿後わずか3時間の間に1万6千件のコメントが寄せられたそうだが、その多くが同大統領のおとなげないつぶやきを批判する内容だったという。

 一方、グレタ演説に賛同する声が若者層を中心に圧倒的に多かったことも事実のようだ。これまで大人世界に遠慮していた若者が「未来の地球」の代表として発言する契機を彼女が提供してくれたことを評価している。

 世界の若者、400万人が一斉でも更新

彼女は昨年(2018年)8月,地球温暖化に対する政府の無策に抗議するため,一人で学校を休んでストックホルムの国会議事堂前に座り込み、気候危機の影響を受けるのは「我々若者だ」と訴えた。グレタさんの行動はSNSの世界で拡散し、共感した世界各地の高校生や大学生が「未来のための金曜日」と称して、毎週金曜日に授業をボイコットする「学校ストライキ」が欧米中心に広がっている。23日の気候行動サミット直前の9月20日、「地球を救う」世界一斉デモが欧米やアジア、アフリカなどの各地で行われた。主催者側によると、400万人以上が参加したそうだ。日本でも東京、大阪、名古屋、福岡などで大学生、高校生らがデモ行進した。

 

持続可能な地球づくりに一石の重み

 大人社会の個々の構成員、既存企業の中からも、「未来を生きる若者に持続可能な地球を残す」ことの重要性に賛同する動きが目立っている。グレタ演説が投げかけた一石は時間の経過とともに現状維持型の大人社会を変革し、破壊された地球環境の回復、持続可能な地球づくりへの転換を促す動きに発展することを期待したい。

(2019年10月12日記)

作成者: tadahiro mitsuhashi

三橋規宏 経済・環境ジャーナリスト 千葉商科大学名誉教授 1964年、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、論説副主幹などを経て、2000年4月千葉商科大学政策情報学部教授。2010年4月から名誉教授、専門は経済学、環境経済学、環境経営学。主な著書に「新・日本経済入門」(編著、日本経済新聞出版社)、「グリーン・リカバリー」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)「サステナビリティ経営」(講談社)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)など多数。中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長など歴任。

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