受動喫煙, 改正健康増進法, 東京都受動喫煙防止条例

SOS地球号(234)  財務省など公共機関、今月から完全禁煙実施

幼稚園、小、中、高校は9月から屋外も全面禁止

 G20大阪サミット(主要20カ国・地域首脳会議)が連日マスコミを賑わしていた6月下旬、財務省や経産省など霞ヶ関の行政機関をはじめ、全国の自治体、学校や病院の建物に大きな変化が進行していた。それまで建物内のあちこちにあった大小様々な灰皿が撤去され、建物内の喫煙所で紫煙を楽しむ職員の姿もめっきり減った。大学でも「喫煙は基本的人権の一つだだ」などと息巻いていた一部の学生も、「時代の変化には逆らえない」とあきらめ顔だった。

なぜこのような大きな変化が起こったのか。

 成立までに曲折があったが、受動喫煙の防止を目的とする改正健康増進法、同じ目的の東京都受動喫煙防止条例が来年4月から完全実施される。それに先立ち、二つの法律の一部が前倒しで7月から実施されたからだ。たとえば、健康増進法の改正で、学校や病院、保育所、行政機関の建物内は7月から完全禁煙になる。9月からは都条例によって幼稚園、保健所、小中学校、高校などは屋外を含め全面禁煙になる。

 喫煙組からの執拗な反対を押し切って、7月1日から日本列島全域の多くの公共施設の建物内で一斉禁煙が実現したことは時代の後押しがあったとはいえ大きな前進と言えるだろう。

 

「国会、地方議会は規制の対象外」に不満の声

 もっともすべての法律に抜け穴があるように、改正健康増進法も「人が通らない場所につくる」などの対策をとれば、屋外に喫煙所を設置できる抜け道を認めている。霞ヶ関の官庁街や新宿・都庁近くの公園の一角に設置されている屋外喫煙所には7月以降連日多くの喫煙者が押寄せており、特にランチ時間帯は喫煙所に入りきれない「喫煙難民」が路上に溢れ、簡易灰皿を片手に喫煙している姿が目立つ。

さらにもう一つの大きな抜け道は国会や地方議会は規制の対象外になっていることだ。47都道府県のうち、7月初め現在、規制対象にしているは4割弱の18都府県に止まっている。この点については不満の声が強い。

 多くの大学は7月までに屋内だけではなく敷地内も含め全面禁止に踏み切っているようだ。ただ、一部の大学では校門付近や路上で学生が歩きたばこをし、吸い殻をポイ捨てするため、苦情が地元住民から寄せられるケースもあり、対応に苦慮しているところもあるようだ。

 

本丸は飲食店の屋内規制,改正健康増進法に抜け穴目立つ

 しかし何と言っても、受動喫煙対策の本丸は来年4月から実施される事務所、ホテル、飲食店などでの屋内規制だ。特に飲食店の場合は狭い空間で多くの喫煙者がたばこを吸うため、受動喫煙の悪影響は深刻だ。改正健康増進法が飲食店に義務づける対策は、規模の大きな店の場合は原則屋内禁止(喫煙専用室内で喫煙可)、規模の小さな店の場合は、客席面積100平方メートル、資本金5千万円以下の場合は対象外になる。これだと、個人や中小企業が営む既存の小規模飲食店のほとんどすべてが外れてしまう。

 

都条例、従業員のいる店、全面喫煙禁止

 この欠点を補ったのが都条例だ。同条例は経営規模の大小にかかわらず、従業員のいる店は喫煙室以外を禁止にしている。これで飲食店の約84%を規制対象にできると東京都の担当者は指摘している。千葉市も同様の条例を制定した。たばこ規制枠組み条約が求める「屋内全面禁煙」にはなお届かないが、それなりの成果をあげることができるだろう。

 

喫煙者の入社お断りの企業も登場

企業も禁煙に向け様々な取り組みをはじめています。たとえば、ファミリーレストラン、「すかいらーく」は9月を目標にグループの約3千店の敷地を全面禁煙にする。いまある喫煙ブースはおむつ交換や授乳に利用できるスペースに改装する計画だ。喫煙者不採用を掲げる企業も増えています。損害保険の「損保ジャパン日本興亜」は去る4月、20年度に入社する新卒募集対象者として非喫煙者か入社時点でたばこを止めている人に限ると発表した。

世界の取り組みと比較し、周回遅れと批判されてきた日本の受動喫煙対策だが、東京オリンピック・パラリンピック開催を直前に、なんとか滑り込みセーフになりそうだ。

 

たばこ文化との決別も視野に

だが、課題も残っている。

たばこを吸いながら談論風発するたばこ文化は江戸時代までさかのぼる。それだけに急速に進む受動喫煙対策に抵抗する向きも少なくないのが現状だ。テレビの連続ドラマや刑事物では相変わらず、たばこスパスパのシーンがかなり登場する。演出家が愛煙家で「アンチたばこ」の風潮に抗議するため、喫煙場面を頻繁に登場させている連続ドラマもあるという。

 だが、喫煙が自分ばかりか他人の健康にも深刻な影響を与えることが医学的にも解明されている。時代は大きく変わったのである。こどもへの影響も考え、テレビ局は大所高所にたって、喫煙場面をテレビ放送から断固、追放する自覚,意識改革が必要だろう。

(2019年7月11日記)

作成者: tadahiro mitsuhashi

三橋規宏 経済・環境ジャーナリスト 千葉商科大学名誉教授 1964年、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、論説副主幹などを経て、2000年4月千葉商科大学政策情報学部教授。2010年4月から名誉教授、専門は経済学、環境経済学、環境経営学。主な著書に「新・日本経済入門」(編著、日本経済新聞出版社)、「グリーン・リカバリー」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)「サステナビリティ経営」(講談社)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)など多数。中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長など歴任。

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