019年問題と太陽光発電, 固定価格買い取り制度(FIT)

SOS地球号(233) 公共投資で送配電網の整備を急げ

家庭用太陽光発電と2019年問題

 戸建て住宅の屋根の上に太陽光発電パネルを敷設している住宅はいまや日本全国どこでも見られる景色になっている。この一般家庭向け太陽光発電が普及した最大の理由は政府が2009年11月から導入した固定価格買い取り制度(FIT)だ。太陽光などの再生可能エネルギーの普及を促進するため、家庭用の太陽光発電でつくった電気を割高の価格で電力会社に購入させる制度である。買い取り期間は10年のため、期限を迎える家庭が11月以降に多数出てくる。

 スタート当初の電気の買い取り価格は1kW時当たり48円だった。この特典が11月から順次終わることになる。期限を迎えた家庭では高額な売電収入が得られなくなる。期限後は発電した電気を自分の家で使うか市場価格で事業者に売ることになる。この落差のことを2019年問題と言っている。

 年内に約53万件(家庭)、約200万kW(出力)が期限切れになる。発電出力では原発2基分に相当する。23年までの累計は165万件(約670万kW)が期限切れを迎える。

 

発想の転換求められる「卒FIT

 割高価格で売電してきた電気代が入らなくなるのでショックを受ける家庭も多いのではないか。だが、これは10年前のFITスタート時に決まっていたことである。10年間割高の売電ができ、投資資金を回収できた家庭も少なくないはずだ。

 期限切れの家庭用太陽光発電のことを「卒FIT」と呼んでいる。各家庭は高収入の売電は期待できなくなるが、これからはCO2を排出しない太陽光発電を積極的に使用することで、気候変動の安定に貢献するという「発想の転換」が求められる。

 

「売る」から「使う」へ工夫 

卒FITを迎えた家庭が最初に検討すべきことは、発電した電気を自分の家で使う工夫である。電力会社から購入する電気代より安いので、太陽光発電の利用が増えれば電気代の節約になる。

 ただ、太陽光発電はその性格から昼間は発電量が大きく、夜間は発電できない。また夏場は大きく、冬場は少ないなど時間帯や季節の違いによって発電量が大幅に違ってくる。このため太陽光発電の電気を上手に安定的に使うためには蓄電池が必要になる。家庭向けの一般的な蓄電池は現在100万円前後と高く、電気代の節約では吸収できない。このため、パナソニックなどの電子機器メーカーは住宅向けに約3kW対応の小型蓄電池を年内に発売する準備をしている。お手頃価格で蓄電池が手に入れば、自家消費の拡大に結び付く。

 

市場価格で売電は可能

第二は売電だ。太陽光発電を所有している家庭の中には、卒FITになれば「電気をただで電力会社に取られてしまう」と誤解している向きもあるが、そんなことはない。

 大手電力会社は最近,相次いで卒FITの買い取り価格を公表している。例えば関西電力は1kW時当たり8円、中国電力が7.17円、四国電力が7円などとなっている。東京電力も6月頃までに価格を公表する予定だ。当初の48円と比べれば見劣りするが、すでに10年間メリットを得てきたわけだから、通常の市場価格で売電すると考えて納得するほかない。

 この他、新電力の大手の中には電力会社より最大3円程度の高値で購入する計画のところもある。

 電力以外でも、家庭の太陽光電力を購入する動きが広がっている。積水化学は自社で建てた「セキスイハイム」の住宅で太陽光発電施設があれば9円,蓄電池を備えていれば12円。積水ハウスも自社物件は11円で購入する。両者とも買い上げた電気は自社で使い環境重視の経営を推進させる。小売りではイオンが中部電力と協力して卒FITを買い取り、自社の店舗で使う計画だ。卒FITの家庭は自分の好みに合った事業者を選んで売電すればよい。

 

国は公共投資として送配電網の整備急げ

「卒FIT」を契機に国民の太陽光発電など再生可能エネルギーへの取り組みが後退しないように国として対策が必要である。最も急がれているのが再エネ電力を大量に全国各地に送れる丈夫で太い送配電網の新設だ。既存の送配電網は電力会社が整備したものだが、再エネ電力の割合が3割以上になると変圧器などが壊れやすくなる。

 再エネ対応型の送電網を新しく敷設するためには巨額の資金と長い時間がかかる。個々の電力会社が取り組むには負担が大き過ぎる。

かつて国が公共投資として産業インフラである道路や新幹線の建設を推進したように、再エネ対応型の送配電網の建設を新しい公共投資として位置づけ、取り組むべきである。

近い将来、家庭の太陽光発電を地域内で融通し合う「スマートッグリッド」が普及すれば、地域分散,地産地消型の新しいエネルギー供給体制が可能になるだろう。

卒FITを契機に、太陽光など再エネ利用をさらに広げるためには、再エネ対応型の送配電網の構築・整備・普及を急がなければならない。

(2,019年6月15日記)

作成者: tadahiro mitsuhashi

三橋規宏 経済・環境ジャーナリスト 千葉商科大学名誉教授 1964年、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、論説副主幹などを経て、2000年4月千葉商科大学政策情報学部教授。2010年4月から名誉教授、専門は経済学、環境経済学、環境経営学。主な著書に「新・日本経済入門」(編著、日本経済新聞出版社)、「グリーン・リカバリー」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)「サステナビリティ経営」(講談社)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)など多数。中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長など歴任。

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