ポイ捨て、使い捨て文化, 海洋汚染, 脱プラスチック

SOS地球号(229) 脱プラへ重い腰あげる日本

世界のプラスチック製品の約7割が廃棄物に

プラスチックによる海洋汚染が深刻化する中で、脱プラ対策が官民、需要と供給両サイドから様々な形で動き始めた。

OECD(経済開発協力機構)などの資料によると、世界のプラスチック生産量は約4億700トン(2015年現在)。その約7割の3億200万トンがペットボトルや包装容器、レジ袋などの形で使い捨てられごみになると推定されている。日本でもプラスチック循環利用協会調べによると、年間プラスチック廃棄物は16年現在899万トンに達している。そのち、57%は燃やしてエネルギーとして利用、27%が別の製品などに再生して活用、残りの16%は使い道がなく、最終的にはごみとして埋め立て処分されるが、その過程で一部(推定約6万トン)が海洋に流出し、海洋汚染の一因になっていると見られている。

 

ポイ捨て、使い捨て文化が異常なまでに発展

 ポリ塩化ビニル、ポリエチレンなどのプラスチック製品が広く私たちの生活で利用されるようになったのは第二次世界大戦後、1950年代に入ってからだ。量産化が可能で安価、使い勝手がよいため、それまでの自然素材だった紙、木材、鉄などの金属材料に代って様々な容器類、家具、住宅建設資材、容器包装など生活のあらゆる場面に使われるようになった。

 プラスチック製品の生産量は量産化が可能になった1950年には世界で200万トン程度だったが、いまやその約200倍,4億トンを超えるまでに増えていることは冒頭で指摘した通りだ。

 

基本はプラスチック製品の生産、使用の禁止だが・・・

しかし何事も良いこと尽くめと言う訳にはいかない。安価のためポイ捨て、使い捨て文化が異常なまでに発展し、大量のプラスチック廃棄物を生み出してしまった。自然素材の紙や木材などは使用済み後、自然界に戻せばやがて分解され自然に帰る。人工的に生産されたプラスチックが自然界に戻るためには長い歳月が必要だし、その過程でマイクロプラスチックなどのごみになり深刻な海洋汚染を引き起こす。

 脱プラスチック対策の基本は、プラスチックの生産、消費を全廃することだが、私たちの生活の隅々までに組み込まれているプラスチック製品を短期間にゼロにすることは現実的ではない。まずはポイ捨て、使い捨てに直結するようなプラスチック製品の生産、使用を抑制することだ。

 

日本の廃プラ対策は世界的に立ち後れている

 廃プラスチック対策に熱心なEU(欧州連合)は、昨年、使い捨てプラスチック製品を2030年までにゼロにする方針を発表した。一方、日本の廃プラ対策は国際的にみて大幅に立ち後れている。

 企業経営への影響を恐れて抜本的な対策を回避してきたためだ。このため、一人当たりプラスチック廃棄物量は年間約32kgに達しており、米国に次いで世界2位という不名誉な地位に甘んじている。昨年6月、カナダで開かれた主要7カ国首脳会議で、廃プラ対策を促す「海洋プラスチック憲章」に米国と並んで署名しなかった日本は、環境後進国として世界の環境NGOから厳しく批判された。いまや廃プラ規制の法制化では隣国の中国や韓国よりも遅れている。

 

日本は30年までにプラスチック廃棄物を25%削減

 このような脱プラの世界潮流の大きなうねりに押されるように、環境省は昨年10月、プラスチック削減戦略を打ち出した。30年までにペットボトルやレジ袋、食品容器などの使い捨てプラスチック排出量を現在より25%削減する目標だ。EU目標と比較すると、著しく見劣りするが、とにかく重い腰をあげたことは一歩前進といえるだろう。

 民間の需要サイドでは、スターバックス、すかいらーく、セブン&アイ・フードシステムズなどの多くの飲食店が今年から来年にかけてプラ製ストローを全廃する方針を明らかにしている。

 ファーストリテイリング傘下のユニクロは、日本を含む世界2000店舗で使うレジ袋や商品の包装材を使用後は土に戻れる生分解性プラスチックや紙などに置き換える方向で検討している。また,花王は歯磨き粉の洗浄剤に使うマイクロビーズを天然由来成分に切り替えると発表した。個別企業ベースで見ると、脱プラの動きは日を追って広がっている。

 

私たち消費者も使い捨て文化と決別する覚悟を

 一方、素材供給サイドも、生分解性プラスチックの生産に取り組む化学会社、紙製のカップや容器の生産に力を入れる製紙メーカーなど脱プラの動きが多様な形で動き出している。

 脱プラの動きをさらに加速させるためには、肝心の私たち消費者がポイ捨て、使い捨て文化と決別し、強い決意で行動することが求められている。

(2019年2月8日記)

作成者: tadahiro mitsuhashi

三橋規宏 経済・環境ジャーナリスト 千葉商科大学名誉教授 1964年、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、論説副主幹などを経て、2000年4月千葉商科大学政策情報学部教授。2010年4月から名誉教授、専門は経済学、環境経済学、環境経営学。主な著書に「新・日本経済入門」(編著、日本経済新聞出版社)、「グリーン・リカバリー」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)「サステナビリティ経営」(講談社)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)など多数。中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長など歴任。

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