2050年頃には全廃が必要
人間活動に起因する地球温暖化の急速な進行で、世界各地で異常気象が発生している。日本も今夏は熱暑、集中豪雨による洪水などの被害が目立った。IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)が10月に発表した「1.5度特別報告書」によると、産業革命以降の気温上昇を1.5度未満に抑えるというパリ協定の努力目標を達成するためには今世紀中頃までに石炭火力発電をすべて廃止しなければならないと警告している。
17年11月にボンで開かれたCOP23(国連気候変動枠組条約第締約国会議)では英政府とカナダ政府がリーダーシップをとり、脱石炭火力の国際連盟を発足させた。今年4月現在28カ国、8地方政府、24企業・組織がパートナーとなっている。
同連盟は具体的火力発電廃止の時期について、OECD加盟国の場合2030年まで、それ以外の国でも2050年までに石炭火力から撤退すべきだと指摘している。
英独仏などは2030年までに全廃発表
脱石炭火力方針は2015年に英国が「25年までにゼロにする」と発表したのを皮切りに、フランスは21年までに、スェーデン22年までに、オランダ、カナダ、デンマーク、ドイツは30年までにゼロにする方針を明らかにしている。
温暖化対策に熱心な欧州と異なり、日米は石炭火力大国で、撤廃には否定的だ。米国では2000年以前、発電に占める石炭火力の割合は50%を大きく超えていたが、2000年以降急速に減少し、18年6月までの上半期の発電量の割合は前年同期の32.5%から26.9%まで低下している。
トランプ大統領の優遇措置にもかかわらず、米国では石炭比率は低下
トランプ政権の石炭火力優遇政策にもかかわらず、石炭火力の比率が低下しているのは、風力などの再生可能エネルギーの発電コストが低下し、石炭火力の優位性が失われてきたこと、温暖化対策に熱心なカリフォルニア州などの地方政府が石炭火力の縮小に積極的に取り組んでいることなどが挙げられる。石炭火力比率はトランプ大統領の意志に反し、今後も減少していくと見られる。
2030年の石炭火力比率26%、突出する日本
日本の場合は石炭火力依存体質がいぜん根強く残ったままだ。石炭火力の発電比率は福島原発事故以前の2010年時点で25%だったが、7月初めに閣議決定された新エネルギー基本計画(第5次)では、2030年の比率を26%に設定している。経産省は石炭火力温存のため、「超々臨界圧」などの新技術を積極的に導入し、石炭火力の高効率化を進め、国際的な理解を得ようとしている。しかし石炭火力をいかに効率化しても、CO2の排出削減には限界がある。30年ゼロを目指す欧州主要国は、「日本は本気で温暖化対策に取り組んで取いない」と受け止めており、厳しい批判の声が挙っている。
丸紅は石炭火力から撤退発表
しかし、ここにきて潮目が大きく変わってきた。石炭火力から撤退する企業や石炭火力への新規の投融資を取りやめる金融機関が増えてきたことだ。大手商社の丸紅は、9月、石炭火力発電所の新規開発から撤退すると発表した。すでに保有する石炭火力発電の権益も30年までに半減させる計画だ。同社は世界で計1200万kw分の発電所の持ち分を保有しおり、出力の合計は中国電力を上回っている。東京ガスと九州電力が千葉県袖ヶ浦市で新設を計画している火力発電の燃料をこれまでの石炭から液化天然ガス(LNG)に転換する方針を明らかにした。
金融機関も新規融資取り止めの動き活発
一方、金融機関の中では、日本生命保険が今年7月、「石炭火力発電への新規の投融資を今後全面的に取りやめる」と発表した。これに続き、第一生命、明治安田生命も同様の措置を発表した。世界の石炭火力発電事業者への投融資が突出して多いと外国のNGOから批判されている日本のメガバンクも今年に入り、「石炭火力への融資を厳しくする」(三井住友銀行)、「国際的状況を十分に認識した上で、ファイナンスの可否を慎重に検討する(三菱UFJファイナンス)など脱石炭火力への姿勢を強めている。石炭火力推進の旗ふり役、経済産業省も省エネルギー法に基づく告示で、島嶼部を除き、「小型火力発電の新設を禁止する」方針を打ち出した。ささやかな譲歩だが、脱石炭火力の世界的潮流を意識せざるを得なくなった結果であり「数年前には考えられなかったこと」と環境省幹部は指摘している。
脱石炭火力の大波は日本にも押寄せ始めているようだ。
(2018年12月10日記)