FIT対象の再エネ、発電容量年率26%増
政府が推進する再生可能エネルギー戦略に混乱が生じている。再エネ普及の切り札として政府が2012年7月に導入した固定価格買取制度(FIT)に支えられ、再エネ発電容量は急増している。たとえば2003年度から09年度まで6年間の再エネの発電容量の増加率は年率5%、09年度からFIT導入の12年度までの3年間は同9%だった。これに対し、導入後の12年度から16年度の4年間は同26%と急増している。
太陽光発電が突出、FITの約95%を占める
FITの対象になる再エネの種類は、太陽光、風力、中小水力、地熱、バイオマスの5種類だが、この中で太陽光発電が突出している。経産省の調査によると、FIT導入後、発電容量の累積は17年3月末現在、3千539万kw(キロワット)だが、このうちの約95%が太陽光で占められている。
太陽光発電に人気が集まるのは①個人の屋根の上や耕作放棄地、荒廃地などに簡単に設置できる、②比較的小額の投資資金で賄える、③発電パネルなどの技術革新が進み、パネルの低コスト化が期待できるーなどが受けているためだ。
様々な再エネが同じように普及するのではなく、太陽光に集中した結果、新たな問題が発生してきた。
九州電力、出力抑制に踏み切る
具体的には、九州電力が昨年10月13日に実施した太陽光発電を一時的に止める「出力抑制」だ。九電の送電網につながる約2万4千件の太陽光発電事業者のうち、9759件を遠隔操作で送電線を切り離した。
日照条件がいい九州は太陽光発電の設置が進み、九電管内の太陽光発電の出力は807万kw(18年8月末時点)に達している。これに対し需要量は825万kwなのでお天気次第で需要のほとんどを太陽光発電で賄える状態になっている。
一方、九電管内では9月下旬から原子力発電4基が営業運転しており、その出力は414万kw程度と見積もられている。
電力は需要と供給がバランスしないと周波数が乱れ、最悪の場合、大規模停電が起こる可能性がある。9月6日に発生した北海道地震で大型火力発電が停止し供給力が急減した。その影響でほぼ北海道全域で停電する「ブラックアウト」が発生したことはまだ記憶に新しいところだ。
供給力が需要を上回る
皮肉なことに、九電の場合は供給力の増加が問題になっている。九電は余った電力の一部を火力発電の出力抑制などで対応してきた。しかし秋に入り涼しくなり、冷房需要が落ちてくるため、太陽光発電の出力を抑制しないとバランスを取るのが難しくなってきた。10月13日の供給推定量は1293万kw。これに対し需要推定量は828万kwだ。需要に合わせるためには465万kwを抑制しなければならない。その対策としてダムに水を汲み上げる揚水式発電,蓄電池による貯留、域外への送電で合わせて422kwを賄う予定だが、それでも43万kwが余ってしまう。この部分を太陽光発電の稼働を止めて抑制したのが今回の「出力抑制」だ。
出力抑制は緊急の場合の例外措置として国に認められている。欧州でも再エネの出力抑制は認められているが、ドイツやフランスでは原発で出力調整をしている。日本では原発発電を優先するルールになっているため、太陽光の出力抑制に踏み切ったわけだ。
太陽光発電事業者、強く反発
この措置に対し、太陽光発電事業者は強く反発している。再エネの普及は今や優先度の高い国是であり、7月3日に閣議決定された第5次エネルギー基本計画でも、再エネについて「主力電源化」を目指すと明記されている。出力抑制はまず原発で実施すべきだと主張している。
「再エネ推進と出力抑制」という矛盾が表面化した背景には、再エネ推進計画が、「国家百年の計」といった長期的、大局的な展望に立って作成されたものではなく、足元の利害調整に重点を置いた杜撰かつ場当たり的、短期的視点で作成されたことにある。
再エネに耐える太く、頑丈な送配電網の構築に挑め
地域分散型の再エネを主力電源にするためには、余った電力を他の地域に送電するなどの体制整備、さらに既存の送配電線網を温存するのではなく、増え続ける様々な再エネ電源を流してもびくともしない太くて頑丈な送配電網の整備・構築が大前提なはずだが、この点については当初から検討されなかった。
九電の「出力抑制」で再エネ戦略に大きな矛盾が発生したこの機会に、国家百年の計の視点に立って、再エネの普及・促進ための新たな体制を官民一体で早急に創り上げていくことが必要だろう。
(2018年11月2日記)