IPCC, エネルギー基本計画, パリ協定, 地球温暖化対策

SOS地球号(222) 2040年頃、気温1・5度上昇、IPCCの不気味な予想

温暖化は95%以上の確率で人間活動に起因する

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、現状の温暖化ガスの排出ペースが続くと,2040年頃の気温は産業革命前より1・5度上昇するとの予測をまとめまた。予想通りに上昇すると、猛暑や豪雨が増加するほか海面水位も上昇し、動植物の絶滅を加速させるなど人類の生存条件が目に見えて悪化すると分析している。

 この温暖化予測はIPCCが10月に韓国で開く会合で特別報告書として公表する予定だ。IPCCは1990年から約5年ごとに温暖化が気候変動に与える影響を分析、報告書として公表してきた。最新の第5回報告書は13〜14年に公表され、20世紀半ば以降の温暖化の主な要因は、「95%以上の確率で人間の影響の可能性が極めて高い」と断定している。

 

最新の科学的知見を提供

 IPCCには世界各国の科学者、研究者、専門家、さらに各国政府・国際機関の気候問題担当者など2000人以上の人々が人知を結集し、気候変動と温暖化の関係を詳細に検討、分析している。その結果をまとめた報告書は最新の「科学的知見」として高く評価されている。20年以降の温暖化ガス削減ルールを定めたパリ協定もIPCCの科学的知見を全面的に取り入れて策定された。

 1回から5回までの報告書は、今世紀(21世紀)末頃の気温上昇を予測し、気候変動などに与える影響を分析しているが、40年時点というすぐ先の近未来の予測を公表するのは今回が初めてだ。近未来の予測を公表することで、温暖化対策は「待ったなし」の状態に追い込まれていることを世界各国に警告し、対策強化を誘導する狙いがあると思われる。

 

気温上昇、過去の3倍のスピード

 IPCCの第6次報告書は来年(19年)4月に予定されている第54回総会で公表されるが、その中に今回の近未来予測も含まれる見通だ。

 今回の特別報告書によると、2017年時点で産業革命前と比べた気温上昇はすでに1度に達している。現状の温暖化ガスの排出が同じペースで続くと、今後10年当たり0・2度程度上昇し、40年頃には1・5度に達すると予測している。産業革命時の1880年から2012年までの約130年間の温度上昇は10年当たり0・06度だったので最近の上昇ペースは約3倍もスピードが早まっている。

 気温が1・5度上昇したときに予想される影響の中で最も懸念されるのが気候変動だ。大気中の水蒸気量が増え、1回に降る雨の量は10%以上も増え、気温も5度以上高くなる地域が出てくる。

 

豪雨、猛暑など異常気象の背景に温度上昇

 今年の日本を振り返ってみても、西日本の豪雨に続き、連日40度近くの猛暑が日本列島を覆い、熱中症などで多数の死者が出るなど被害が際立っている。

 異常気象による被害は日本だけに限らない。ギリシャでは熱波が原因とみられる山火事で76人が死亡、ラオスでは暴風雨に伴う増水で建設中のダムが崩壊し、数百名が行方不明になっている。グリーンランドでは温暖化と豪雨で巨大な氷塊が崩落した。熱波の来襲でカナダでは90人以上が死亡、インドではガンジス川の水位が極端に低下した。

 

50年頃までに化石燃料の消費、「実質ゼロ」が望ましい

 異常気象の猛威を食い止めるためには、パリ協定が指摘するように、50年頃までに化石燃料などの使用で排出される温暖化ガスを「実質ゼロ」にすることが望ましい。

 危機感を共有し、欧州や中国、インド、トランプ大統領の米国さえ石炭火力の縮小を急速に進めている。そうした世界の潮流に背を向けるように、日本だけが石炭火力依存を逆に強めようとしており、その姿勢は海外から異常に見える。

 振り返ってみると、原発事故発生前の2010年度の石炭火力の電源構成比率は25%、事故後の12年度は27.6%だった。この時は事故で原発がすべてストップしてしまったため、緊急措置として石炭火力依存が高まったのは仕方なかった。

 

石炭火力で突出する日本

 問題なのはこれからの対策だ。先月初め、政府はエネルギー政策の中長期的な方向性を示す「第5次エネルギー基本計画」を閣議決定した。その内容は、2030年の電源構成の56%を火力(石炭、ガス、石油)で賄い、そのうち石炭火力の構成比は26%を目標にしている。石炭比率は事故前も事故後もこれからも変えないという姿勢だ。石炭火力は価格も安いし、高効率の石炭火力が開発されているのでCO2削減に貢献できると経産省は説明するが、それでも化石燃料の中では最大の排出量だ。

さらに英國やフランス政府はCO2を大量に排出するガソリン車やディーゼル車の販売を40年までに禁止すると発表したが、日本政府は自動車産業に与える影響が大き過ぎるとして及び腰だ。

 

対岸の火事を眺めるような日本の姿勢

 豪雨や異常な台風の被害の原因が大量に排出される温暖化ガスにあることは明確であり、各国が真剣な取り組みをしているにもかかわらず、わが国だけが対岸の火事を眺めるような消極的な姿勢を貫いているのは残念であり、滑稽にさえ見える。

 (2018年8月7日記)

作成者: tadahiro mitsuhashi

三橋規宏 経済・環境ジャーナリスト 千葉商科大学名誉教授 1964年、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、論説副主幹などを経て、2000年4月千葉商科大学政策情報学部教授。2010年4月から名誉教授、専門は経済学、環境経済学、環境経営学。主な著書に「新・日本経済入門」(編著、日本経済新聞出版社)、「グリーン・リカバリー」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)「サステナビリティ経営」(講談社)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)など多数。中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長など歴任。

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