パリ協定、SDGsなどが背中押す
地球温暖化対策や環境保全など環境分野に用途を限定した資金調達手段として政府による森林税の導入や地方自治体、企業による環境債発行などの動きが広がってきた。この背景には国際的な温暖化対策を定めたパリ協定が20年から実施されることや環境の保護や貧困の撲滅など17分野の目標を掲げる国連の「持続可能な開発目標(SDGs)に対応した動きといえるだろう。
森林環境税、18年度税制大綱に盛り込む
政府・与党が創設を検討している「森林環境税」は、森林整備の財源を補うため、一人当たり年1千円を徴収するというもので、導入時期は2024年からとなっている。昨年12月下旬、18年度の税制改正大綱が閣議決定されたが、この中に新税として記載された。新税は個人住民税を納めている約6200万人が対象で、国が住民税に上乗せして集める。年約600億円の税収は森林面積などに応じて原則、市町村に配分される。荒廃した森林の間伐や林業機械の導入、作業場の整備、人材育成などに充てる予定だ。
府県民税として37府県、横浜市が導入
しかし、森林環境税については、すでに同様の税金が37府県と横浜市で導入済みだ。府県ベースの森林環境税は2003年4月に高知県が導入したのが最初で、その後10年程の間に岡山県、鳥取県、熊本県、岩手県、神奈川県、長野県、山梨県、京都府など多くの府県が導入している。具体的な課税方法はこれまでの府県民税に環境税を加算して徴収する。課税額は年間500円程度が中心だが、岩手県や山形県のように1000円、最高は宮城県1200円のところもある。
県土の約8割を森林が占める長野県では08年度(平成20年度)から森林税(森林づくり県民税)の導入に踏み切った。16年度(平成28年度)年までの9年間、年間一人当たり500円を負担する。年間約6・7億円の森林税を活用して荒廃した森林の間伐、里山整備などを進めてきた。16年度で森林税の期限が切れるが、里山整備などはまだ道半ばであり、最近さらに5年間の延長を決めた。
森林税を導入している多くの府県でも森林税の納入期限を決めているが、長野県同様延長実施するとことがほとんどだ。
二重課税の恐れあり
政府・与党が導入を目指している国税としての森林環境税については、すでに導入されている府県ベースの森林税と二重課税の恐れがあり、これらの府県では「新税を設ける必要性がどこまであるか」などの疑問も指摘されている。
政府は新税の目的、使い道などを明確にし、府県民税としてすでに森林税を負担している住民と負担していない住民との間に不公平が生じないような配慮が求められる。年間約600億円の新税の使途についても他の分野に流用されないように厳格な規制が必要だ。
わが国では「地球温暖化対策税」として12年に石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料に対し炭素税を実施した。しかし炭素税の大幅引き上げは産業界の反対が強く、CO2(二酸化炭素)の排出抑制に大きな効果を挙げるまでに至っていない。今回の新税が温暖化対策に効果をあげることができれば、停滞気味の温暖化対策に弾みをつけることも期待できる。
東京都は約100億円の環境債発行、使途は道路照明用のLED
この他に、グリーン分野の資金調達として環境債が注目されている。温暖化対策事業、廃棄物や水資源の監理、生物多様性対策事業など調達資金の用途を限定して発効される債券のことで、グリーンボンドとも呼ばれている。世界銀行が温暖化対策支援プロジェクトの資金調達目的として08年に初めて発行した。東京都は昨年12月、個人向けの環境債を約100億円発行した。豪ドル建ての5年債(年利2.55%)で、調達した資金は道路照明の発光ダイオード(LED)などに充てる計画だ。
民間部門では日本リテールファンド投資法人が不動産投資信託(REIT)として環境債を発行すると発表、年限は5年、環境性能の高いビルの取得資金などに充てる。日本郵船が年限5年の環境債発行の準備をしている。液化天然ガス(LNG)燃料船の製造・開発などに充てる。
グリーン分野に目的を絞った環境債がビジネスとして成立すれば、財源難に苦しむ日本の環境政策の幅を広げ、多様な環境分野に資金が回るきっかけになり、環境分野に自分のお金を使いたいと思っている人々の願いに応えることにもなるだろう。
(2018年6月13日記)