「もんじゅ」の解体作業7月から本格化
日本原子力研究開発機構の高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の解体へ向けた作業が7月から本格化する。原子力規制委員会が3月下旬、廃炉計画を認めたためだ。作業工程は2047年度末までの約30年間。まず5年かけて原子炉の中にある核燃料を取り出す。その後炉心に残る冷却材のナトリウムを取り除く作業などに着手する。
欧米主要国撤退、刀折れ矢尽きた日本も続く
高速増殖炉の廃炉は世界的にもほとんど例がない。高速増殖炉は技術上の困難さからドイツは91年に、英国は94年に撤退し、フランスも98年に実証炉を閉鎖した。米国はもともと基礎研究にとどめ、実証炉には取り組んでいない。日本が突出していたわけだが、ついに刀折れ矢尽きてギブアップ、未経験の解体作業に手探り状態で取り組む羽目になった。
特にナトリウムは水や空気と激しく反応するため、火災になっても水をかけられないなど多くの問題を抱えており慎重な監理が必要だ。危険物質のナトリウムの取り出し作業を含め、この分野で先進技術を持つフランスなどからの協力・支援も必要で、一筋縄ではいかない。
解体費用3750億円は過小見積もりか
文部科学省は解体費用を約3750億円と見込んでいるが、会計検査院は11日、廃炉費用には人件費や固定資産税が含まれていないと指摘、さらに費用が増加する可能性を指摘した。未経験の作業のため、予期せぬ難問や突発事故の恐れも想定され、実際にはその何倍もの費用がかかることも視野に入れておくべきだと指摘する専門家もいる。未経験で危険で手間のかかる壮大な解体作業の第一歩がこれから始まるわけだ。
建設費と維持費で1兆円超費やした夢の原子炉
高速増殖炉「もんじゅ」は「夢の原子炉」として、戦後日本の原子力エネルギー政策を象徴する存在だった。ウランに高速中性子を当てると、中性子を吸収してプルトニウムに変化し増殖するため、発電に使ったプルトニウムよりも多くのプルトニウムが生産できる。
高速増殖炉の燃料は、使用済核燃料を再処理して取り出したプルトニウムにウランを混ぜたMOX燃料を使う。MOX燃料は青森県六ケ所村の再処理工場でつくる。一度使った使用済核燃料を何度も利用できるので、オイルショックを経験した日本にとってはまさに「夢の技術」だった。「核燃料サイクル」が完成し、実用化されればエネルギー資源の乏しい日本に大きな貢献が期待できる。
高速炉の建設計画は1960年代から始まった。実際の建設工事は85年に始まり、91年に完成した。発電出力は28万kWで、94年にようやく稼働にこぎつけた。95年8月から発電を開始したが、同年12月に冷却用ナトリウムが漏れる事故で運転を停止した。それ以降、点検漏れなど安全上の不祥事が相次ぎ、十分な成果を挙げないまま16年12月に廃炉が決まった。これまでに建設と維持費に約1兆円超が投入されてきた。
六ヶ所村の再処理施設も進退窮まる
もうひとつの核燃料サイクル計画、青森県六ヶ所村の再処理施設も進退極まる状況に追い込まれている。再処理工場を運営する日本原燃は昨年12月下旬、18年度上半期としていた施設の完成を3年延長し、21年度上半期にすることを明らかにした。施設の老朽化で建屋に雨水が流入する事故、ウラン濃縮工場で排気ダクトの腐食など杜撰な運営・監理が問題になり原子力規制委員会が稼働に向けた審査を中断したことなどが響いた。1993年に着工し97年に完成予定だったが、毎年のように完成が延期され、今日に至っている。2兆円超の巨費が投じられながら20年以上も稼働しない異常な状態が続いている。
エネルギー政策の舵を切り換える勇気が必要
将来工場が稼働しても核兵器に転用可能なプルトニウムが増え続けることになる。日本は現在原子爆弾約6千発に相当する約47トンのプルトニウムを保有している。これ以上増え続ければ国際社会の疑惑を招きかねない。「もんじゅ」廃炉と並んで再処理工場も完全に行き詰まっている。
この際、政府は過去のこだわりを捨て、脱核燃料サイクルへ向け大きく日本のエネルギー政策の舵を切り換える勇気が必要だ。
(2018年5月14日記)