COP3, 地球温暖化対策推進法, 気候変動適応法案, 珊瑚の白化現象

SOS地球号(218)  無視できなくなった温暖化の悪影響

熱中症の増加や珊瑚の白化現象

 地球温暖化に伴い、巨大台風の頻発、集中豪雨や干ばつなど異常気象の日常化、植物分布や農作物への悪影響、熱中症・感染症の増加などが大きな社会問題になっている。最近新聞やテレビなどで盛んに取り上げられる沖縄周辺海域での珊瑚の白化現象も温暖化の影響とされている。

 政府は温暖化対策としてこれまで、温暖化の原因であるCO2(二酸化炭素)などの温室効果ガスの発生を減少させるため、石炭など化石燃料の消費抑制に重点的に取り組んできた。97年12月に京都で開かれたCOP3(国連気候変動枠組条約第3回締約国会議)で京都議定書が採択された翌年の98年に「地球温暖化対策推進法」(緩和策)を成立させ、各国と協力し温暖化対策に取り組んできた。

 

気候変動適応法案、今国会での成立目指す

 それにもかかわらず、温暖化は着実に進み、その弊害が年を経るごとに多方面に広がっており、無視できなくなってきた。すでに始まっている温暖化の被害を回避・軽減するための適応策を国として本格的に取り組むための法的措置が求められる。

 この課題に応えるため、環境省が中心になり、法制化の準備を進めてきましたが、このほど「気候変動適応法案」としてまとまり、2月の閣議で決定された。今国会に提出され、会期後半にも成立する見通しだ。成立すれば6ヶ月以内に実施される。

 

適応計画の作成義務づけ、5年ごとに改定

 適応対策としては、巨大台風に備えた堤防などの社会基盤整備、雨水や下水処理水の利用、高温に耐える農産物の品種開発・普及、魚類の分布域の変化に対応した漁場の整備、ハザードマップ(被害予測地図)の作成、ヒートアイランド対策、熱中症予防対策など市民生活にかかわる様々な対策が必要だ。同法案はこれらの問題を具体的かつ総合的に推進するため「気候変動適応計画」の作成を義務づけている。

 法案骨子によると、環境大臣がおおむね5年ごとに農林水産業、水環境・水資源、自然生態系、自然災害、健康、産業・経済活動、国民生活などの分野で温暖化による悪影響(影響評価)を評価する。その結果を踏まえて「適応計画」を改定する。

 対策に必要な情報収集、発信の拠点が国立環境研究所に設置される。たとえば温暖化に伴ってコメの適地が日本列島を北上しているが、地域別のコメの収穫量の将来予測、同様に海岸線の砂丘消失率の将来予測なども国環研がこれまでの研究成果を生かして幅広く国民に提供する。

 

地域ごとの適応計画も努力義務

 一方、南北に長い日本列島では温暖化による影響にかなりの地域差が見られる。このため、適応法は都道府県及び市町村(東京23区を含む)に「地域気候変動適応計画」の策定を努力目標として義務づけている。複数の自治体で計画をつくることもでき、対策を進める上での情報収集・提供、調査研究などの拠点として地域気候変動適応センターを各地域に設置し、国と地方公共団体が連携していくための広域協議会の設置もが定められている。

 このほか、適応対策に役立つ技術開発など企業の取り組みやビジネスを支援するほか海面上昇の脅威に苦しむ島国などへの国際協力を推進する。

 

温暖化対策は「緩和」と「適応」の両輪で

 国際社会の温暖化対策は二つの柱で動いている。ひとつはすでに指摘したように、CO2などの排出を減らし、温暖化を抑制する緩和策。もうひとつが今回の適応策だ。フランス、英国、ドイツ、米国などは11〜15年に国レベルの適応計画を相次ぎ策定し、法制化して取り組んでいる。日本も15年に「気候変動の影響への適応計画」を作成し閣議決定したが、法的根拠が曖昧なこともあり、実際には機能していなかった。今回、同法が成立すれば、遅ればせながら日本も「緩和」と「適応」を両輪とする温暖化対策が動き出すことになる。

                     (2018年4月11日記)

 

作成者: tadahiro mitsuhashi

三橋規宏 経済・環境ジャーナリスト 千葉商科大学名誉教授 1964年、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、論説副主幹などを経て、2000年4月千葉商科大学政策情報学部教授。2010年4月から名誉教授、専門は経済学、環境経済学、環境経営学。主な著書に「新・日本経済入門」(編著、日本経済新聞出版社)、「グリーン・リカバリー」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)「サステナビリティ経営」(講談社)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)など多数。中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長など歴任。

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