受動喫煙, 地球温暖化対策

SOS地球号(217) SDGs重視の東京五輪は可能か 〜オリンピック後に生かせる内容に〜

持続可能な開発目標の意味とは・・・

 最近「持続可能な開発目標(SDGs)」という言葉が新聞やテレビによく登場する。SDGsは英語のSustainable Development Goalsの略称だ。2015年9月、国連サミットの場で15年後の30年を期限とする持続可能な開発のための目標として採択された。

 国連の「環境と開発に関する世界委員会」は今から30年以上前の1987年に出した報告書「Our Common Future(我ら共通の未来)」の中で、初めて「持続可能な開発」という考え方を示した。それによると持続可能な開発とは「将来世代のニーズを満たす能力を損なうことなく現代世代のニーズを満たすこと」と定義されている。持続可能な開発のためには、生態系の全体的な保全や天然資源の開発や投資、技術開発の方向づけ、制度改革などがすべてひとつにまとまり、現在および将来の人間の欲求と願望を満たす能力を高めるように変化していく過程だと指摘している。しかし、「持続可能な開発」の定義は抽象的で人によって様々な解釈が可能なため、いつしか忘れ去られてしまった。

 

17の目標、169のターゲット、12兆ドルのニュービジネス

 この言葉が15年の国連サミットで不死鳥のように蘇り、復活した背景には、温暖化に伴う異常気象の頻発や自然災害などが世界各地で多発する一方、資源枯渇現象にも歯止めがかからず、「持続可能な開発」が大きく損なわれているとの危機感がある。SDGsは87年に示された「持続可能な開発」が抽象的だった反省から、30年までに実現させるべき17の目標、169のターゲットを具体的に掲げている。17の目標の中には環境保全や資源対策などの他に貧困の撲滅、教育や持続可能なインフラ整備、働き方改革、持続可能な生産と消費など広範囲な分野が含まれている。グローバルベースでSDGsに取り組めば、2030年までに12兆ドル(約1350兆円)の関連ビジネスが生まれるとの予測もある。

 企業にとっても大きなビジネスチャンスであり、SDGsに取り組む企業が急増している。政府も安倍晋三首相をトップにSDGs推進本部を設け、16年12月に実施方針を作成している。

 

国際オリンピック委員会、SDGs五輪の推進求める

 国際オリンピック委員会(IOC)もSDGs五輪の推進に力を入れている。IOC大会組織委員会も、15年の採択以降、東京が初めての夏季五輪になるため準備段階からSDGs 五輪の実施を日本に強く求めている。組織委は、建設業者、選手村の食堂や競技施設のフードコートで飲食類を提供する業者らに対し、木材、農産物、畜産物、水産物などに調達基準の遵守を求めている。基準には環境配慮、生産地で働く人や先住民の人権擁護、生態系の保全などが義務づけられている。基準の中には第三者機関の認証を推奨しているケースが目立つ。

 もっとも、IOCが求める調達基準は、環境配慮、生態系保全などに昔から取り組んできた多くの日本の農民、漁民、林業従事者にはそんな基準は当たり前で「わざわざ第三者機関の認証をとれなどは迷惑な話だ」との批判も少なくない。

 

食品ロス対策をどうする

 SDGs配慮の東京五輪を目指すためには調達基準はほんの第一歩に過ぎない。食品ロスをいかに削減させるかも大きな課題だ。12年のロンドン大会では、全体で1500万食以上、選手村では200万食の飲食が提供され、約1500トンの食品廃棄物が出たという。東京五輪でもロンドン同様の大量の食品ロスが発生する可能性がある。食品ロスを大幅に削減させるための対策、最終的に排出された食品廃棄物の循環処理など具体的に考えていく必要がある。

 

受動喫煙対策は不十分

政府が3月9日、受動喫煙対策を強化する健康増進法改正案を閣議決定した。法案の内容は客席100平方メートル以下で個人経営か資本金5千万円以下の既存の小規模店では、「喫煙」、「禁煙」などを表示すれば喫煙を認める内容だ。国際水準から見ると、受動喫煙対策後進国のレッテルを貼られかねない。

 真夏のオリンピックになるため、選手、観客などに対するきめ細かなヒートアイランド対策も欠かせない。選手や観客の誘導やガイドを担うボランティアの労働環境にも様々な配慮が欠かせない。さらにオリンピック終了後の選手村の宿泊施設に使われた給湯器、エアコンなどの備品のリユース、リサイクルもこれからの課題だ。

 東京五輪では、金、銀,銅メダルをすべてリサイクル金属で充当する試みも進んでいる。

 

五輪後参考になるSDGsの展開を期待

 2年後に迫った東京五輪のSDGs配慮はまだスターしたばかりだが、具体策に踏み込むと、資金調達や組織運営方法などで各団体、グループの利害対立が目立ち、いずれも難問山積だ。

 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が中心になり、主催都市、東京都と協力して今後、具体的内容を詰めていくことになる。様々な試みがその場限りの一過性で終わらせず、五輪終了後、日本のSDGs推進の飛躍台になるような質の高い内容に仕上げる手腕と実行力が求められている。

(2018年3月15日記)

作成者: tadahiro mitsuhashi

三橋規宏 経済・環境ジャーナリスト 千葉商科大学名誉教授 1964年、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、論説副主幹などを経て、2000年4月千葉商科大学政策情報学部教授。2010年4月から名誉教授、専門は経済学、環境経済学、環境経営学。主な著書に「新・日本経済入門」(編著、日本経済新聞出版社)、「グリーン・リカバリー」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)「サステナビリティ経営」(講談社)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)など多数。中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長など歴任。

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