人類絶滅までの残り時間を示す
「終末時計(Doomsday clock)」ってご存知だろうか。核戦争や地球温暖化などの脅威で、人類(世界や地球と表現されることもある)絶滅の日がすぐ近くまで迫っていること知らせる時計のことだ。具体的には、人類絶滅を午前0時になぞらえ、絶滅までの残り時間を「零時まであと何分」という形で象徴的に示す時計のことだ。
23時58分まで進む
最近、終末時計が注目されたのは、米科学雑誌、「原子力科学者会報」(ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ)が、1月下旬に「世界終末時計を前年から30秒進め、残り2分にした」と発表したためだ。私たち人類は今,23時58分、まさに絶滅の淵に立たされている、と赤信号を発信した。
世界終末時計は同誌が1947年から核戦争の脅威に警告を発するため作成しているもので、毎年一回発表している。針は危機の程度によってある年は前に進んだり、逆に戻ったりする。
核兵器をめぐる北朝鮮と米国との対立が原因
今回の発表が注目されたのは、残り時間が2分と切迫した内容だったためである。これまで絶滅への脅威が最も高まったのは、米ソ両国が水素爆弾の実験に踏み切った1953年で、この時も針が進められ、今回と同じ残り2分に迫った。
同誌の残り時間を決める委員会は、声明で「2017年に北朝鮮の核兵器開発はめざましい発展を遂げた」と述べ、「北朝鮮と米国による誇張した発言や挑発行為が核戦争を引き起こす可能性を高めた」と指摘している。30秒進めた理由としてこの他に米ロ関係の悪化、イランなどの核兵器問題などもあげられている。
逆に人類滅亡まで1番時間が戻ったのはソ連崩壊により冷戦が終結した1991年の17分前だった。
環境危機時計も最悪の時刻を刻む
世界終末時計は主として核戦争による人類滅亡の危機を警告するものだが、もう一つ地球環境の悪化に重点を置いた終末時計がある。旭硝子財団が毎年発表する「環境危機時計」だ。同財団は1992年にブラジルのリオデジャネイロで開かれた地球サミットを機に、地球環境問題の解決に取り組み、実績をあげた世界の学者、科学者、活動家などを表彰する「ブループラネット賞」を創設した。この賞は「環境分野のノーベル賞」といわれている。同財団はブループラネット賞の創設と同時に環境危機時計を作成、発表している。環境危機時計は、危機の度合い4区分に分け、時計に見立てて1時から3時まで、3時以降6時までの2区分は「ほとんど不安はない」、「少し不安」とし、3区分目の6時以降9時までが「かなり不安」。最後の4区分目は午後9時以降12時まで。「極めて不安」に分類し、12時が絶滅を示している。
世界の有識者を対象にアンケート調査
調査方法は世界各国の政府・自治体、NGO/NPO、大学・研究機関、企業、マスメディアなど環境問題に携わる有識者約3万人(海外95%、国内5%)を対象にアンケート調査をし、その結果を時刻表示する。最新の17年の回収数は2152人だった。調査項目は気候変動、生物多様性、土地利用、化学物質による環境汚染、人口、水、食糧など9項目について危険度を時刻表示してもらい、全体を集計する。2017年の環境危機時計は前年より2分進んで9時33分になった。
米のパリ協定離脱が危機感募らせる
92年から実施しているが、温暖化への危機が高まった2008年と並んで最も危険度が進んだ年になった。回答者の55%が米国の大統領選挙以降の政治状況が危機時刻を決める際、影響を受けたと指摘した。特に2020年から実施される地球温暖化防止のための国際的枠組みを定めたパリ協定からの離脱は世界の温暖化対策の先行きに大きな不安を与えている。
いずれもトランプ大統領が引き金
二つの終末時計がそろって、昨年を「最も人類絶滅に近づいた年」とした主要な理由として米トランプ大統領の登場をあげているのは極めて興味深い。
世界最強の軍事力を保持し、世界最大の経済大国である米国大統領が、国際秩序の安定、維持を放棄し「アメリカファースト」を掲げた振る舞いが、人類絶滅までの時間を早めていることを米国民は深刻に受け止めるべきだろう。
(2018年2月11日記)