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SOS地球号(215) 東京五輪へ向け動き始めた無電柱化への挑戦

かつて電柱は日本の原風景だったのだが・・・

 東京都は2020年の東京五輪・パラリンピックまでに都心部の電柱・電線の地中化を実現するため積極的に動き始めまた。

 日本には約3千5百万本の電柱があり、年に約7万本ずつ増えている。電柱の地中化率は1%程度に過ぎない。走行中の車の中から車外の景色を撮ろうとすると、電柱が邪魔になって困った経験をお持ちの方は多いのではないか。電柱の小さな迷惑は数え上げればきりがないほどあるとはいえ、日本人にとって生また時からずっと見慣れてきた原風景だけに、それほど違和感はなかったように思う。

 

災害の際、電柱は凶器になりやすい

 それがなぜ今、急に無電柱化が叫ばれるようになってきたのだろうか。いくつかの理由が指摘できる。第一は災害の際、電柱は凶器になりやすいことだ。東日本大震災では約5万6千本、95年の阪神大震災でも約8千本が倒れた。電柱が倒壊すると、道路を塞ぎ、避難者の逃げ道や救援作業を妨げる。消防活動にも支障になる。また電線類の断線によって電気や電話などのライフラインも壊されてしまう。首都直下地震が心配される東京で特に無電柱化の必要性が強調されているのもそのためだ。第二は通行の支障になる電柱を排除し、道路の有効面積を広げることで、ベビーカーや車椅子利用者、高齢者などの移動の円滑化を図ること。

 

オリンピックを控え、都市景観の創出を

 第三が良好な都市景観の創出だ。電柱が乱立し、電線が二重、三重に張り巡らされていると、視界が妨げられ、都市景観を著しく損なう。都市部の無電柱化率はロンドン、パリ、香港で100%、これに対し日本では無電柱化が進んでいる東京23区でも約7%に止まっている。

 この数年、日本を訪れる外国人観光客が急増している。2年後の東京オリンピック・パラリンピックにはさらに多くの外国人観光客の訪日が期待されている。日本各地の都市の魅力を高めるためにも無電柱化を推進したいと政府は考えている。

 

東京都、昨年9月に無電化推進条例を施行

 この方針を実現するため、政府は16年12月に「無電柱化推進法」を施行し、国や自治体、電力・通信事業者が責任を持って取り組むよう定めた。11月10日を「無電柱化の日」とする熱の入れようだ。さらに「無電柱化」に熱心な小池百合子東京都知事が登場したことで、東京都の取り組みが加速し、昨年9月1日に東京都無電化推進条例が施行された。

 東京都には都道と区市町村道合わせて約75万本の電柱がある。短期間に一気に埋めるのはとても無理なので、23区内を中心に「センター・コア・エリア」設定した。具体的にはJR山手線の西側を南北に走る山手通りと東京下町を東西に流れる荒川に囲まれた地域だ。このエリアは東京圏の中心で、都心、副都心が含まれる。政治、経済、文化の中心地域でもある。この地域の無電柱化を最優先させる計画だ。すでにこの地域の都道536kについては92%の無電柱化が完了しているので、残りの42kmを19年度末までに地中化すればよいことになる。

 

最大の障害は地中化コスト、1kmあたり5.3億円

無電柱化の最大の障害は費用の問題だ。道路の下に管を埋め、ケーブルを通すと1kmあたり5・3億円かかる。エリア内には都道の他に区市町村道があり、そこの電柱の地中化をどこまで進めることができるかは今後の課題だ。無電柱化に熱心な中野区や杉並区などは区道の無電柱化を進める方針を決めているが、どこまで推進できるかは、都、国からの資金援助次第だ。費用の3分の2は東京都と国が負担するが、残りの3分の1は、自治体、所有者の東電パワーグリッドとNTT東日本などが賄わなければならない。福島原発事故で巨額の賠償負担を抱える親会社の東電がどこまで費用負担に耐えられるかなどを含め、具体化に当たっては難しい課題が多数残っている。

 東京都の場合も、優先地域以外の都道の無電柱化だけでも8000億円の費用が必要との試算もある。さらに区市町村道の無電柱化を視野に入れれば、数兆円の規模に膨れ上がるだろう。富士山登山に例えれば、都心部の無電柱化は1合目に過ぎないとの指摘もある。

 

縦割り行政の弊害も目立つ

 これまでの無電柱化の動きを振り返ると、縦割り行政の弊害も目立つ。道路は国土交通省、通信は総務省、道路使用は警察庁、電力は経済産業省などに分かれており書類作成、意思決定に大きな遅れをもたらしてきた。

 無電柱化の推進に当たっては、各論の実施段階では難問山積だが、先頭を走る東京都の取り組みが今後の日本の無電柱化に大きな参考になるはずだ。知恵を絞った良い先例を示すことを期待したい。

 (2018年1月9日記)

作成者: tadahiro mitsuhashi

三橋規宏 経済・環境ジャーナリスト 千葉商科大学名誉教授 1964年、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、論説副主幹などを経て、2000年4月千葉商科大学政策情報学部教授。2010年4月から名誉教授、専門は経済学、環境経済学、環境経営学。主な著書に「新・日本経済入門」(編著、日本経済新聞出版社)、「グリーン・リカバリー」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)「サステナビリティ経営」(講談社)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)など多数。中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長など歴任。

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