世界で起こる地震の約10%が日本に集中
日本周辺には複数のプレート(岩板)が押し合い、世界で起こる地震の約10%が集中している。地震には東日本大震災などの「海溝型」の他に「内陸型」がある。内陸型で大きな被害をもたらすのが活断層による地震。1995年の阪神大震災、04年の新潟県中越地震、16年4月の熊本地震はいずれも活断層の異変によって起こった。活断層は全国で約2千あるとされ、その中でマグネチュード(M)7級の地震を起こす恐れがあるとして113の主要活断層帯が選定されている。
50年頃までに起こる可能性が強い
近い将来、最も恐れられているのが「海溝型」の南海トラフ大地震の発生だ。南海トラフとは静岡県沖の駿河湾から九州の沖合まで続く海底のくぼ地で、約100年から200年おきに大地震が繰り返し起こっている。過去を振り返ると、1854年に安政東海、安政南海地震が発生、その90年後の1944年には昭和東南海地震、46年には昭和南海地震が発生している。この繰り返しでいけば、2050年頃までに南海トラフ大地震が起こる可能性が強まっていると考えられる。内閣府の試算によると、南海トラフ地震が起これば、最悪の場合32万3千人が死亡し、経済被害は215兆円に及ぶ。
現行の大震法、「予知可能」が前提
近い将来起こるかもしれない大地震対策について、政府の基本的な取り組み姿勢が今年8月に大きく転換した。国の中央防災会議の作業部会は、同月25日、地震の予知を前提としない現実的な防災対策をとるよう国や地方自治体に求める報告書をまとめた。
1978年に制定された現行の大規模地震対策特別措置法(大震法)に基づく防災体制では、東海沖の地震は「予知が可能」を前提としていた。地震の前兆を捉えると、首相が「警戒宣言」を出し、鉄道の運休、銀行や百貨店の休業、学校の休校などの対策を取ることになっている。同法は静岡、愛知,三重など8都県157市町村を「地震防災対策強化地域」に指定いる。
「地震学の限界」踏まえた現実的対応が必要
作業部会は、現在の科学的知見では地震の「確度の高い予知は難しい」として、現在の「地震学の限界」を認め、それを踏まえて今後の防災体制を整えるべきだと報告書で提言している。地震の予知は可能かどうかを巡って地震学者の間で長い間意見の対立があったが、この報告書で決着がついた意義は大きい。提言を受け入れ首相の警戒宣言の発令は事実上棚上げされる見通しだ。
報告書を受け、これからは、地震が突然起きても被害を最小限に抑える対策を積極的に推進していくことが求められる。津波対策として津波避難タワーの建設、避難路の整備、海岸線から一定の距離を置いた住宅建設、地震対策としては耐震基準を満たさない建物はできるだけ早くゼロにする、活断層の真上に建造物を造らない、被災地に救援部隊や物資を送る輸送ルートの整備・拡充、高齢者の避難場所の確保など数え上げればきりがないほどの対策が必要になる。地震発生危険区域に立地する原発の安全対策も大きな課題だ。これらの対策が各省庁の縦割り行政でバラバラに展開されれば、いざとなった場合大混乱が生じかねない。全体を総合的に束ね、地震対策を整合的に展開する常設の司令塔の創設が必要になるだろう。
住民も、政府頼みではなく、自己責任で万全の対策を
政府は今後、静岡県、高知県などをモデル地区にして防災対策の課題を洗い出す予定だという。気象庁も今月1日から南海トラフの震源地で異常な現象が確認された場合、臨時情報として速やかにその内容を発表する方針を決めた。情報発信の際には、住民に対し、避難場所や避難経路、備蓄の確認、家具の固定などを呼びかける予定だ。
地震大国に住む私たち住民一人一人も、「地震学の限界」という現実を受け入れ、政府頼みではなく、大地震が起こった場合の対策を日頃からしっかり研究し、万全の備えをしておく覚悟が必要だろう。
(2017年11月7日記)