エネルギー基本計画, パリ協定, 再生可能エネルギー

SOS地球号(210) 世界潮流に背向けるエネルギー基本計画の見直し

世耕経産相、現計画の骨格変えない

 経済産業省が今後のエネルギー政策の指針となる「エネルギー基本計画」の見直しに着手した。来年3月末をメドに見直し案をまとめる予定である。基本計画はエネルギー政策基本法(02年公布)で3年ごとに見直しすることが定められている。2014年に決定した現計画は旧民主党政権が掲げた「脱原発」を転換し、原発を安く安定供給できる「ベースロード電源」として位置づけている。

 世耕弘成経産相は見直し着手の最初の会議で、「基本的には現計画の骨格は変えない」と釘を刺した。世耕発言には、経産省が現計画の見直しに極めて消極的なことを示しているように思われる。

 

アリバイづくりの見直しか

 法律があり、3年ごとに見直せと定められているので、本心はやりたくないのだが仕方がないのでやる、といった姿勢が見え見えだ。実際に見直し作業に取り組むのは総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)の分科会だが、大半の委員が経産省のお気に入りの有識者のため、来年3月末に提出される見直し案は、現行の基本計画とあまり変わらない内容になる可能性が極めて高そうだ。「法律に従ってしっかりやりました」というアリバイづくりのための見直しに過ぎない、との厳しい批判の声も出ている。

 エネルギー分野は供給体制、需要構造面で短期間に大きな変化が起こるので、3年に一度見直すことによって、時代の変化に適切に対応していくことが義務づけられているのである。石炭と原発を中心とした戦後日本のエネルギー供給体制は原発事故や地球温暖化対策の進展で大きく揺らいでいる。代って、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの利用、普及が急務になっている。需要面でも、長期的にみると低成長に伴う電力需要の減少、家庭の節電、省エネ機器の登場などで需要全体が縮小している。

 2020年からスタートする国際的な地球温暖化対策の枠組みであるパリ協定は、今世紀後半までに大量にCO2(二酸化炭素)を排出する石炭などの使用は事実上ゼロにすることが望ましいと指摘している。

 

抜本的改革のチャンスなのに・・・

 今回の「基本計画見直し」は、日本を取り巻く内外のエネルギー情勢、環境の大きな変化に対応するため、抜本的な改革を進める絶好のチャンスのはずだ。

 現行計画によると、2030年度の主な電源構成目標(発電能力)は、原子力20〜22%、石炭26%、液化天然ガス27%、再生可能エネルギー22〜24%などとなっている。

 見直し案ではこの構成比はほとんど変えず、現状維持を貫くことを密かに狙っている。だが世界のエネルギー動向を見ると、現行計画は時代遅れで、現状維持では、脱原発、脱石炭を目指す世界の潮流から大きく遅れてしまう。たとえば、現行計画では、30年度に発電量の約2割を原発で賄うとすれば、原発の再稼働だけではなく老朽原発の運転延期、立て替え、さらに新規建設も必要になるかも知れない。脱原発の国民意識の高まりを押し切って、現在2%程度過ぎない原発比率を約2割まで引き上げることなど政治的に見ても不可能だろう。

 

時代遅れの現計画から抜け出せ

 さらに欧州や中国、トランプ大統領の米国でさえ石炭火力の縮小が大きな流れになっている。その中で30年度の石炭比率26%を維持しようとする日本の姿は海外から異常に見える。日本は2050年までに温室効果ガスの排出を現在より80%削減させることを世界に公約している。そのためのロードマップはまだできていない。

このような諸事情を考慮すれば、今回の見直し当たっては、脱原発、石炭から液化天然ガスへの転換、再生可能エネルギーの大幅拡大を3本柱にした抜本的,かつ長期的な見直しが必要になる。経産省は硬直化した、時代遅れの現行のエネルキー基本計画に固執せず、思い切った発想の転換によって、時代の要請にあった斬新、かつ魅力的な「エネルギー基本計画」の作成に挑むべきだ。

作成者: tadahiro mitsuhashi

三橋規宏 経済・環境ジャーナリスト 千葉商科大学名誉教授 1964年、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、論説副主幹などを経て、2000年4月千葉商科大学政策情報学部教授。2010年4月から名誉教授、専門は経済学、環境経済学、環境経営学。主な著書に「新・日本経済入門」(編著、日本経済新聞出版社)、「グリーン・リカバリー」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)「サステナビリティ経営」(講談社)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)など多数。中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長など歴任。

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