屋内全面禁煙に根強い抵抗
2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックが迫ってくる中で、日本に受動喫煙防止を迫る外圧が強まっている。他人のたばこを吸い込む受動喫煙の健康被害については科学的に証明されており、喫煙規制の動きは世界的に広がっている。しかし独特のたばこ文化を持つ日本では、規制に反対する根強い抵抗勢力が壁になり、受動喫煙防止策を罰則付きに強化する法(健康増進法)の改正案が立ち往生している。世界各国で進む受動喫煙対策は、05年に発効した「たばこ規制の枠組み条約」(FCTC)8条に「たばこの煙にさらされることからの保護」が定められており、それが根拠になって進められている。今回政府が改正案に乗り出したのは、東京五輪・パラリンピックを意識したものだ。
WHO、「日本の対策、世界最低レベル」と指摘
国際オリンピック委員会(IOC)は世界保健機関(WHO)と協力し「たばこのない五輪・パラリンピックの実現」で合意している。たとえば前回の開催地だったリオデジャネイロは09年に州法で「屋内禁煙」を決めた。来年18年に平昌で冬期五輪を開催する韓国でも15年1月にすべての飲食店が原則禁止になった。これに対し日本は受動喫煙対策を「努力義務」にとどめてきた。このため、規制に主導的役割を演じているWHOは「日本の受動喫煙対策は世界で最低レベルだ」と指摘している。東京五輪の開催が近づく中で、この数年WHOやIOC関係者が相次ぎ東京を訪問、飲食店など視察し、屋内の受動喫煙対策がほとんど進んでいないことに苦情を呈している。
厚労省案も、褒められたものではないが・・・
五輪開催を新たな追い風にして、厚労省は遅ればせながら罰則付きの受動喫煙防止策を盛り込んだ法改正に乗り出したが、反対派の強力な抵抗に合い、法案づくりが難航している。厚労省案は「屋内原則禁煙」を掲げているが、バー、スナックなど30平方メートル以下は喫煙を認めるなど不完全な内容で、世界標準からはとても褒められたものではない。
自民党たばこ議員連盟、衆参約280人が抵抗勢力
この厚生省案に対して「喫煙の自由を奪うものだ」噛み付いたのが自民党の「たばこ議員連盟」(会長=野田毅・前党税制調査会長)だ。同議連はたばこ業界の発展と販売者の生活を守ることを目的としており、衆参約280人の国会議員が所属する巨大勢力だ。同議連は「喫煙を楽しむこと」は国民の権利だとして、「禁煙より分煙」を主張し、規制強化の厚労省案に反対している。一方、自民党内には、「受動喫煙防止議員連盟」も存在している。約80人が所属しており、厚労省案を基本的に支持しているが多勢に無勢だ。厚労省は先の通常国会で受動喫煙対策を強化した法改正案の成立を目指したが、たばこ議連の激しい抵抗で法改正案の提出を見送らざるをえなかった。
自民党議員の中で「健康よりもたばこ産業擁護」の議員がかくも大勢力を形成していることは知らなかったが、政治家、葉たばこ農家、たばこ産業、飲食業界、財務省などたばこで結ばれた日本独特の利権構造の奥の深さに改めて驚いた。
日本独特のたばこ文化の修正も・・・
受動喫煙規制の動きに待ったをかけるもう一つの動きとして日本独特のたばこ文化があげられる。テレビの刑事物ドラマを見ると、いまでも主役がうまそうにたばこを吸っている場面が頻繁に登場する。最近話題のお昼のテレビドラマ、倉本聰脚本 の「やすらぎの郷」は高級老人施設が舞台だ。受動禁煙防止が必要な施設だが、出演者の喫煙シーンが実に多い。これでは禁煙どころか喫煙を奨励しているようなものだ。受動喫煙規制のためには、喫煙を禁じても成り立つような良質なテレビ番組の提供が必要だ。
このような現状を見る限り、残念だが実効性を伴う受動喫煙防止法の成立はなお道遠しといった感が否めない。
小池百合子都知事に期待
唯一の救い、期待は五輪・パラリンピックの主催地、東京都の動向だ。7月初めの都議会議員選挙で、「都民ファーストの会」など多くの政党が受動喫煙防止策の強化を公約として掲げた。
小池百合子東京都知事は、都議選挙後、「国がもたついている中で、五輪のホストシティーとしての役割を果たしていく」と決意を述べ、早ければ9月の都議会定例会に「受動喫煙防止条例案」を提出したいとの考え方を明らかにしている。国がだめなら東京都に頑張ってもらうしかない。罰則付き、例外なしの「屋内100%の禁煙化」をまず東京都が先行し、全国へ範を示してほしい。小池都知事の手腕に期待する。
(2017年8月1日記)