トランプ大統領、「米国第一主義」を鮮明に
異色の米大統領、トランプ氏の登場によって、米国の既存の外交、国防、経済、貿易、社会保障政策などに大きな変化が起こっている。環境政策も例外ではない。このため、特に対応が急がれる米国の地球温暖化対策への取り組みが大きく後退するのではないかとの懸念が世界中に広がっている。
「米国第一主義」を掲げて当選したトランプ大統領は、「米国民の利益を最優先に考えて外交や経済などの政策を実行する」と述べ、他国や世界のことは二の次にする姿勢を鮮明に打ち出している。
インフラに1兆ドル、環境予算2割削減
トランプ大統領は、2月28日夜(日本時間3月1日午前)議会上下両院合同会議で就任後初めてとなる施政方針演説を行った。この中で「インフラに1兆ドル(約113兆ドル)の投資をする」と強調した。財源調達先については触れなかったが、米紙ニューヨーク・タイムズによると、その有力候補の一つとして地球温暖化対策を担う米環境保護局(EPA)の現行予算約80億ドルを2割削減する方針が検討されているという。そうなれば、水質・大気汚染対策、州政府への環境補助金などが削減される可能性がある。
「環境より経済優先」を実行
「環境より経済を優先させる」という姿勢は米共和党の伝統的な考え方のようだ。民主党出身のクリントン大統領時代の1997年、京都議定書の採択に賛成しておきながら次の大統領選で共和党のブッシュ大統領が就任(01年1月)すると、その数ヶ月後京都議定書から離脱してしまった。
2020年以降のグローバルベースの地球温暖化対策を定めたパリ協定(16年11月発効)の制定に当たって、民主党出身のオバマ米大統領は主導的な役割を果たした。他国に先駆け、2025年の温室効果ガス(GHG)の排出削減目標として05年比26〜28%削減と言う野心的な数字を掲げた。その実現のため、化石燃料の中で最大のGHGを排出する火力発電の新設を禁止し、既存施設の廃炉に積極的に取り組み、一方で再生可能エネルギーである風力発電などの推進を進め一定の効果をあげてきた。
2本の基幹石油パイプラインの建設推進、大統領令で
これに対しトランプ大統領は、オバマ前大統領の温暖化対策を否定する姿勢を強めている。たとえば、就任早々2本の基幹石油パイプライン(いずれも長さ2000km前後)の建設を認める大統領令に署名した。1本はオバマ前政権時代、「原油の輸送能力の増強によって石油製品の生産、消費が増え、地球温暖化を加速させる懸念がある」として建設申請を却下していたもの。もう一本は「先住民の居住区の環境汚染を引き起こす」として申請を認めなかった案件だ。トランプ大統領はこの規制を取り消し、建設にゴーサインを出した。これで、「2万8000人の雇用を生む」と得意げに語った。
米環境保護局長官に温暖化懐疑派を抜擢
同大統領が次に打った手が、米国内の環境行政を統括するEPA長官に地球温暖化懐疑派として知られるスコット・ブルイット氏を任命したことだ。同氏はオクラホマ州司法長官で15年にオバマ政権が火力発電所から出るCO2(二酸化炭素)の排出規制基準を設けたことに反発し、27州が参加する集団訴訟を起こした中心人物の一人だ。早くも石炭に厳しかったオバマ時代の環境基準を見直す方針を明らかにしている。
パリ協定の形骸化を心配
オバマ時代の環境規制の見直しが進めば、米国の公約である25年のGHG排出削減目標の達成は難しくなる。中国に次ぐ排出国である米国が目標達成を放棄する事態になれば、パリ協定の形骸化が進む恐れがある。温暖化による海面水位の上昇で国家消滅が懸念される南太平洋やインド洋の島嶼国などを始め、気候変動による異常気象の被害を被る多くの国が米国の変節に危機感を募らせている。
パリ協定からの離脱は時間がかかるが・・・
今後、さらに心配されているのが、パリ協定からの離脱だ。選挙期間中は離脱を示唆していたが、就任後は正式な態度は表明していない。京都議定書の時と違ってすでに国連の条約事務局には批准国として登録済済みなので、離脱する場合はパリ協定で定めた手続きを踏む必要がある。そのためには最低でも4年が必要で、そう簡単に進まない。大統領の再選を防げば離脱を防げると早くも次回大統領選に期待する声も出ているそうだ。
温暖化対策派には憂鬱な時代が始まる
それにアメリカは州政府の独立性が強く、カルフォルニア州のように環境対策に熱心な州は、簡単にトランプ大統領の規制緩和に従うはずがないとの見方もある。とはいえ、温暖化対策推進派にとって憂鬱な時代の幕が切って落とされた。
(3月8日記)