企業経営, 脱原発

SOS地球号(201) 東芝経営危機、脱原発に踏み切る勇気があるか

SOS地球号(201)
東芝経営危機、脱原発に踏み切る勇気があるか

新年おめでとうございます。今年も月1回、様々なテーマで環境コラムをお届けします。ご愛読いただけ幸いです。

東芝経営危機、脱原発に踏み切る勇気があるか

不吉な予言が的中、数千億円規模の損失

昨年9月、東芝の巨額の粉飾決算が明らかになった時、本コラム(2015年9月号)で「原発でつまずいた東芝」のタイトルで、「不正にのめり込んでしまった真の原因は、経営トップが原発を成長事業と見なし、過大な投資に踏み切った経営戦略の失敗にあったことを見逃すべきではない」と指摘した。そして、最後に「東芝再建のためには、お荷物になっている原子力事業分野の思い切った整理、撤退に踏み切る勇気、経営判断ができるかどうかどうかにかかっているといえるだろう」と結んだ。

不幸にしてこの見方が当たってしまったのが、12月27日、東芝が発表した原子力事業部門の数千億円規模の損失である。引き金を引いたのは米原発子会社ウエスチングハウス(WH)が2015年末に原子力関連の建設工事などを手がける米エンジニアリング大手シカゴ・ブリッジ・アンド・アイアン(CB&I)から買収した米原子力サービス会社CB&Iストーン・アンド・ウエブスター(S&W)だ。同社が手がける建設工事の資材や人件費などのコストが想定よりも大きく膨らみ、資産価値が大幅に低下し減損損失が「数千億円規模になる」(綱川智社長)ことが判明した。

原発事故で一気に斜陽産業へ転落

東芝は会計不祥事後、大リストラを実施したが、不思議なことに会計不祥事を招いた原子力事業を半導体メモリーとともに同社事業の柱として位置づけてきた。

原子力事業が成長産業ともてはやされたのは福島原発事故(2011年3月11日発生)以前の話である。事故以前は、経済産業省が「今世紀は原子力ルネサンスの時代になる」として原発時代の到来を煽った。2020年までに9基の原発を新設、30年までに14基以上の原発を新設し、電力発電量の50%以上を原発で賄うことが必要だと打ち上げた。

東芝、日立製作所、三菱重工の三大原子炉メーカーもそれに呼応して原子力事業分野の強化に乗り出した。特に東芝は積極的だった。同社は06年10月に米国の巨大原子炉メーカー、WH(ウエスチングハウス)の発行済株式の77%を54億ドル(当時の為替で約6600億円)で買収し、同社を子会社化した。当時、専門家の間では、ピークを過ぎたWHの市場価値は、最大その半分の3000億円、あるいはそれ以下と言われており、「東芝は高い買い物をした」とささやかれていた。

ところが11年3月の深刻な原発事故を境に原発事業は一気に斜陽産業に転落してしまった。事故発生後、国内の新規原発の受注はゼロ、近い将来も期待できない状態だ。特に巨額の投資をした東芝は深刻だった。不適切会計は、このような背景の中で、会社ぐるみで行われた。東芝は不適切会計対象期間の09年3月期から14年4−12月期までの約7年間に2130億円の利益が水増しされていた。

この時の最大の反省は「原発は斜陽産業」という認識だったはずだ。多くの社員もそう思っていた。ところが、上位下達の強い東芝の企業体質の中で、経営トップが原発推進を唱えればそれに異議を唱えることができなかった。それが今回の巨額損失を生み出す原因になったのは残念である。

特設注意市場銘柄指定延長、3月15日から「監理銘柄」へ

東芝の株価は27日に巨額の損失を同社が発表して以来、29日までの3日間、大幅下落を続け時価総額が一時1兆円を割り込む場面もあった。それだけではない。財務体質の改善も道半ばだ。19日には東京証券取引所が東芝の「特設注意市場銘柄」への指定を延長すると発表した。先月子会社で約5億円の売上高水増しが明らかになったためである。東証は来年3月15日に東芝を上場廃止の恐れがある「監理銘柄」に指定する。リストラ後もガラス張りの財務内容にはほど遠い状態が続いている。

東芝の昨年度決算では純損益が過去最大の4600億円の赤字になった。今年度(17年3月期)決算で数千億円の赤字になれば3年連続の赤字決算になるだけではなく財務の健全性が大幅に失われる。早急に資本増強が迫られそうだが簡単にはいかないだろう。頼みの銀行融資も、これまでの杜撰な経営に対して厳しい姿勢を見せている。倒産への黄信号も点滅し始めた。

生き残るためには原発事業からの撤退しか道はない

東芝が生き残るためには、斜陽産業化した原発事業からの早期撤退しか道はないだろう。

世界を展望すると、チェルノブイリ原発事故から30年、東電福島原発事故から5年余、原発の安全性への不信が高まっている。原発建設コストは毎年上昇の一途をたどっており企業としての事業採算性も失われている。頼みの原発輸出もリスクに満ちあふれている。

中国やインドなどではなお原発依存を強めようとしているが、日本と同じ地震国の台湾では2025年に「原発ゼロ」を目指している。ベトナムも日本とロシアの企業が担う予定の原発計画を撤回した。世界最大級の仏原子力大手「アレバ」も日本や欧米先進国を中心に原発需要が大幅に減少し1兆円を超える累積赤字を抱え、三菱重工に巨額出資を求める悲惨な状態にある。

廃炉ビジネスを成長産業に育てよ

東芝が原発事業から撤退する場合、廃炉ビジネスを成長産業に育てていく分野が残されている。世界には400基を超える原発が存在するが、そのかなりの部分が今後10年以内に「寿命40年」(設立後40年)を終え、廃炉の時期にさしかかる。1基の廃炉に千〜5千億円の費用が必要とされ、廃炉期間も40年近くかかる。原発の廃炉に当たっては炉の取り壊し、高レベル放射性廃棄物の処理、運搬などを含め、高度の技術が求められる。幸いなことに原発建設と廃炉に伴う専門知識の多くはダブっているため、原発技術者を廃炉技術者に転換させることは可十分能だ。

東芝が生き残るためには、既存の原発事業からの早期撤退、廃炉ビジネスへの進出など時代を先取りした分野への積極的な挑戦しかないだろう。

(2017年1月3日記)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作成者: tadahiro mitsuhashi

三橋規宏 経済・環境ジャーナリスト 千葉商科大学名誉教授 1964年、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、論説副主幹などを経て、2000年4月千葉商科大学政策情報学部教授。2010年4月から名誉教授、専門は経済学、環境経済学、環境経営学。主な著書に「新・日本経済入門」(編著、日本経済新聞出版社)、「グリーン・リカバリー」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)「サステナビリティ経営」(講談社)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)など多数。中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長など歴任。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です