SOS地球号(200)
100%ガラス張りの取引市場つくれ、象牙取引で
ワシントン条約とは
絶滅が心配な生物の国際取引を規制する国際条約としてワシントン条約がある。正式名は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」。米国政府およびスイスに本部を置く非政府組織、国際自然保護連合(IUCN)が中心になって条約成立を推進し、1973年3月に米国のワシントンD.Cで採択されたため、通称ワシントン条約と呼ばれている。75年7月1日に発効した。
現在、締約国は182カ国およびEU(欧州連合)で、日本は80年11月に締約国になった。締約国会議は原則として2年に1回開催されてきたが、04年の第13回締約国会議以降は、原則3年に1回開催、最新の会議は今年9〜10月に南アフリカのヨハネスブルクで第17回締約国会議が開かれた。次回18回会議は19年にスリランカで開催が予定されている。
絶滅のおそれに応じて3段階に分類
ワシントン条約では規制の方法として、絶滅のおそれの程度に応じて3段階に分類し、同条約付属書(1、Ⅱ、Ⅲ)に種の名前を掲載して国際取引を規制している。付属書Ⅰに掲載された種は商業取引を原則禁止、付属書Ⅱに掲載された種は輸出国の許可を受ければ商業取引が可能などとなっている。日本人におなじみのクジラ類の多くは付属書Ⅰに掲載、ジンベイザメなどのサメ類は付属書Ⅱに掲載されている。
締約国会議で目下最大の焦点になっているのが象牙の取引規制だ。特にアフリカ象の象牙は商品価値が高く、象牙目当ての密猟が後を絶たない。昨年8月末に発表された大規模なアフリカ象の個体調査「グレート・エレファント・センサス」(GEC)によると、生息が確認されたのは18カ国で約35万頭、東アフリカや中央アフリカでの減少が特に著しかった。象の保護管理が比較的うまくいっている南部アフリカなどでは一部で個体数は増加していたが、全体としては減少が加速していることが分かった。
アフリカ象、35万頭まで減少
1970年頃まではアフリカ大陸には100万頭以上の象が生存していたといわるが、70年代以降、密猟で急減、30万頭近くまで減少してしまった。そこで89年にワシントン条約で象牙の国際取引が原則禁止された。その結果、90年代後半から2000年代前半に個体数が増加、07年には約50万頭まで回復したが、その後再び密猟などで急減し、今回のGECの調査でそれが裏付けられた。
GECはマイクロソフトの共同創業者として財をなした富豪、ポール・G・アレン氏が私財を投じて、空中撮影などを駆使して実施している本格的な個体調査だ。GECによるとこのペースで乱獲が進めば「9年ごとに象の数は半減する」と警告している。
昨年秋、南アで開かれた締約国会議では、アフリカ象の密猟を防ぐためには、国際取引の禁止だけではなく、象牙の国内市場も閉鎖するよう各国に求める決議案が全会一致で採択された。国際取引を規制するワシントン条約が各国内の市場についても規制を求めるのは異例といえるが、密猟を防ぐためにはそのくらいの厳しい措置が必要だという保護団体の願いが込められている。決議には強制力はないが、各国は実施状況を報告することが求められる。
日本の象牙市場規模は規制前の10分の1、約20億円まで縮小
決議案は米国や中央アフリカ諸国が中心となって提案したものだが、一律禁止に難色を示した日本や南アフリカなどに配慮して、「密猟または違法取引の原因になるような国内市場」を閉鎖するよう対象を限定する表現になっている。
日本では象牙は印鑑の材料や装飾品として昔から使われており、象牙市場の規模は89年に国際取引が禁止される以前は約200億円とかなり大きな市場だった。規制後、市場は徐々に縮小し、現在は規制前の10分の1、20億円程度まで縮小しているようだ。環境省では「種の保存法」(93年4月施行)に基づき象牙の届け出を義務づけており、90年Ⅰ月以前に輸入された全形の象牙に限り、登録すれば取引ができる。
登録の義務付けや履歴の付与など必要
従って日本の場合は、「密猟や違法取引の原因になるような市場」には当たらないというのが日本政府の基本姿勢である。だが届け出の対象になる象牙は全形を保つ象牙であり、加工品は含まれていない。さらに「種の保存法」があるとはいえ、インターネットのオークションサイトで無登録の象牙が取引され、警察に摘発された事件も最近起こっている。中国などの外国から密輸で持ち込まれる象牙も少なくないと見られている。「李下に冠を正さず」で、加工品も含め、象牙の国内取引を一切中止するという考え方もあるが、象牙文化の歴史を持つ日本ではとても現実的な提案とは言えまい。国内取引の透明度をさらに高める努力が求められる。たとえば、全形象牙は取引の有無にかかわらず所有者全員に登録を義務づけることや加工品についても履歴を付与するなどの工夫があってもよい。現行の届け出制を許認可制に強化するなどの対策も必要だ。国外からの疑惑をまねかないためにも100%ガラス張りの取引市場を構築すべきだろう。
(2016年12月10日記)