SOS地球号(199)
代替フロン削減でパリ協定支援
パリ協定4日発効
地球温暖化対策の新たな国際ルール「パリ協定」が4日発効した。これを機に温室効果ガス(GHG)排出を今世紀後半に実質ゼロにする野心的な取り組みが始まる。
その一環として、注目されているのが代替フロンの生産を段階的に廃止する試みだ。一見地味に見えるが、温暖化対策としては大きな効果が期待できる。
オゾン層を破壊するフロンを規制するモントリオール議定書の締約国会議が10月アフリカのルワンダで開かれた。この会議で冷凍冷蔵庫やエアコンの冷媒に使われる代替フロンの生産量を段階的に規制する合意が成立した。パリ協定支援の一助にもなる。
モントリオール議定書の効果は大きかったが・・・
モントリオール議定書とはオゾン層の破壊を防ぐため、1987年にカナダのモントリオールで採択、89年に発効した国際協定だ。オゾン層が破壊されると太陽の紫外線が直接地上に届き、皮膚がんや白内障、免疫力の低下など人や生物に悪影響を与えることが科学的に証明されている。議定書には複数の特定フロンの生産廃止、販売規制などが定められ、大きな成果をあげてきた。7月1日付けの米科学誌「サイエンス」に米マサチューセッツ工科大のチームがオゾン層観測結果を発表し、「オゾンホールが2000年を境に小さくなっている」と指摘し、議定書を評価している。
代替フロンの温室効果はCO2の数百倍〜1万倍
だがこれでめでたし、めでたしということにはならなかった。特定フロンに代って使われるようになった代替フロン(ハイドロフルオロカーボン=HFC)が地球温暖化ガスとして無視できなくなってきたためだ。HFCはオゾン層を破壊しないがCO2(二酸化炭素)の数百倍〜一万倍の温室効果を持つ。HFCが使用され始めた当時は生産量も少なくあまり問題はなかったが、この数年グローバルベースで使用量が急増したため温暖化の副作用が注目されるようになった。国連環境計画(UNEP)によると、代替フロンの大気中への放出は毎年7%ずつ増えているという。
日本の場合、2005年度のHFCの温室効果ガス(GHG)排出量は1280万トンだったが、13年度には2倍以上の約3200万トンに急増している。総排出量に占める割合も05年度が0・9%、13年度には2.3%まで上昇している。
代替フロンの生産、日本は2036年に現在比85%削減
10月の締約国会議で合意された生産規制によると、先進国は36年にHFCの生産量を現在と比べ85%、中国やブラジルは45年に80%、インドや産油国は47年に85%それぞれ削減するという内容だ。規制開始年は先進国が19年、中国24年、インドなどは28年に決まった。締約国会議では規制に熱心だったアメリカが「実施されれば、今世紀末までの気温上昇を最大0・5℃抑えられる」と主張した。
新規制合意を受けて、先進国は途上国に先駆けて19年から段階的に代替フロンの生産削減に乗り出さなくてはならない。
日本には今回規制の対象となるHFCの生産を明確に規制する法律はない。既存のオゾン層保護法ではHFCは対象外になっている。またフロン排出抑制法は機器の利用者にHFCの漏出防止策を求めているが、排出は直接制限していない。
企業のイノベーションを刺激する新法の制定を
従って、HFCの段階的削減のための新たな法律が必要になる。仮に新しくつくられる法律名を代替フロン規制法(仮称)と名付ければ、同法律には二つの目標が明記されることが望ましい。一つは温暖化ガス削減効果を高めるため、削減終了期間を大幅に短縮することだ。具体的には2036年の削減終了時期を5〜10年早めること。二つ目は、新たな冷媒の開発で大幅削減や削減時期を早めた企業に対して金融・税制上の優遇措置を与え、更なるイノベーションを奨励する措置だ。HFCに代る冷媒の開発では米国とカナダが一歩リードしているとの見方もあるが、日本企業の中にもCO2やアンモニアなどの「自然冷媒」の研究開発に取り組み一定の成果を上げているエアコンや冷凍冷蔵機メーカーもある。これらの企業が競争力を強化するための積極的な支援が欠かせない。
温暖化対策のためには削減合意事項を守るだけではなく、合意内容を先取りし、効果的な対策を率先実行できるような法体系の整備、拡充が求められよう。
(2016年11月7日記)