SOS地球号(198)
10月号 受動喫煙、肺がんリスク1.3倍の恐怖
受動喫煙対策、世界最低レベル
他人のたばこの煙を吸い込む受動喫煙の被害が広がっているが、日本の対応は世界的に見てかなり遅れている。厚生労働省の有識者検討会が最近まとめた「喫煙と健康影響」に関する報告書(たばこ白書)によると、日本の受動喫煙対策は「世界最低レベル」と指摘し、「屋内の100%禁煙化を目指すべきだ」と提言している。白書が引用した世界保健機関(WHO)の受動喫煙評価によると、日本は「受動喫煙からの保護」、「マスメディアキャンペーン」、「広告、販売促進活動などの禁止要請」の3項目が「最低」で、G7 (先進主要7カ国)の中で最悪だった。
屋内禁煙は「努力目標」のお粗末
健康に悪影響を与える喫煙規制の動きは、世界的に広がっており、2005年2月には日本を含め168カ国以上が参加する「たばこの規制に関する世界保健機関の枠組み条約」が発効した。枠組み条約のガイドラインでは、各国に対し「屋内全面禁止」の法制化を勧告している。
WHOによると、世界の49カ国では、医療機関や大学・学校、飲食店、公共交通機関などの公共の場で「屋内全面規制」を法制化している。これに対し、日本は02年7月に健康増進法(略称受動喫煙防止法)が国会で成立、03年5月から施行されているが、屋内禁煙については「努力義務」に止まるお粗末さである。このため、屋内の一部に「喫煙室」を設置する、飲食店などでは店の一角を衝立てもおかず喫煙場所にするなどの対応が目立っている。店の一角を喫煙場所にするなどは論外だが、「喫煙室」にしても、多くは完全遮断型ではないため、喫煙室から流れ出る煙による受動喫煙は避けらない。
受動喫煙による死亡、年間1万5000人
たばこ白書の発表と前後して、国立がん研究センターが受動喫煙と肺がんリスクに関する研究結果を発表した。それによると、たばこを吸わない人が受動喫煙で肺がんを発症・死亡するリスクは、受動喫煙がない人と比べ、1.3倍に上昇すると指摘している。
労働厚生省によると、日本では受動喫煙が原因で死亡する人は、肺がんや脳卒中などを含め年間1万5千人に達すると推計している。また肺がんで死亡する男性の7割、女性の2割が喫煙だと考えられている。喫煙者自身の肺がんリスクは男性4.4倍、女性2.8倍と高いのは当然だが、喫煙者の家族らの受動喫煙による肺がんリスクへの対応を急がなければならない。
日本独特のたばこ文化も原因か
国民の多くが世界最低の受動喫煙対策に不満を持ち、「屋内100%禁煙化」を望んでいるにもかかわらず、厳しい法制化が進まない理由はどこにあるのか。この点については長い歴史を持つ日本人のたばこ文化と密接な関係があるように思う。日本人が最初にたばこを見たのは、戦国時代末期、宣教師、フランシスコ・ザビエルとともにやってきたポルトガル人船員の喫煙だったとされている。1600年の関ヶ原合戦直前には葉たばこの伝播、栽培が始まり、新し物好きの豊臣秀吉も喫煙したという記録がある。それから400年以上が経過する中で、たばこはすっかり日本人の日常生活の一部に定着してきた。たばこの健康被害が明らかでなかった時代には仕事の後の一服として一部のひとたちの間で愛飲されてきた。このような時代変遷の中で、政治家、葉たばこ農家、たばこ産業、財務省などのたばこをめぐる日本独特の利権構造が形成され、今日に至っている。
立ちふさがるたばこをめぐる利権構造
政治家は選挙の時の投票依頼、さらに政治献金、財務省にとってはたばこ税が重要な税収源になっている。健康増進のため受動禁煙を法制化するといっても、たばこをめぐる強力な利権構造に短期間に大打撃をあたえるような対策は避けたい。こんな思惑が「世界最低レベル」の法制化につながった。
マスメディアの受動喫煙リスク批判も言行不一致で真剣味を欠く。たとえばテレビの刑事物ドラマなどを見ると、今でも、主人公がたばこを吸いながら解決策を考える場面が頻繁に描かれている。禁煙どころか喫煙を奨励しかねない。
今こそ「室内100%禁煙」に踏み切るべきときだ
だが時代は大きく変わった。医学の進歩によって、健康とたばこの関係が科学的に解明され、たばこは健康に対して「百害あって一利無し」とされる時代になった。私たちはこの現実を認め、たばこをめぐる利権構造への打撃を恐れず、この際、健康保護、健康増進を優先させ、「室内全面禁煙」の厳しいたばこ規制に踏み切るべきだろう。
2016年10月7日記